今後の中小企業の社長のあるべき姿とは?

現状分析と対策

現代日本の中小企業に欠けているものはズバリ何でしょうか?

日本の中小企業に欠けていることは、3つにまとめられると思います。
1つめは、現状の延長線上に「解(答え)」があると思っていることです。
2つめは、自社のコアコンピタンス(競争力となる強み)を軽視していること。
3つめは、主導権を握っていない会社が多いこと。

過去に縛られた会社が少なくない現実

冒頭1つめの、現状の延長線上に「解(答え)」を求めると、今までの枠から抜け出せなくなります。外部環境が変わるとこの解が総崩れになり、間違った方向に進んでしまうのです。
大企業を例にした方が皆さんにわかりやすいので、ここでは大企業を例にお話しますと、「過去の呪縛」が起きた一例が、シャープでしょう。液晶にこだわり続け、液晶がすでにコモディティ(日用雑貨品)化していたことに気づきませんでした。コモディティ化とは、消費者が品質よりも価格を重視する価値観を意味します。価格勝負であるにも関わらず、品質勝負をしていたのです。コモディティ化の原因も自社にありました。2003年に技術者をリストラしたとき、その技術が韓国などに流出したのです。

自社の最大の強みをきちんと言えるかどうか

現代では、外部環境の変化が早いため、変化しないこと自体が時代遅れのリスクになります。変化するには、冒頭2つめの「コアコンピタンス」を軸にした多角化が大切です。コアコンピタンスとは、自社の競争力となる強みであり、競争力の源泉です。「弊社にコアコンピタンスなんかあるの?」という社長も中にはおりますが、なければ会社はジリ貧経営か、すでに潰れています(笑)。会社が存続しているのはコアコンピタンスがあるからです。また、自社のコアコンピタンスに気づかないと他社に奪われてもわからず、競争優位を逆転されてしまう可能性も少なくありません。目先の利益のためにコアコンピタンスを売ったりせず、しっかり守り抜くことが大切です。

人間関係や法的規制も強みになります

コアコンピタンスをうまく活用した一例が、毛筆業界の技術です。優れた技術を化粧筆づくりに活かしました。これが世界的に評価され、海外の化粧ブランドがこぞって使うようになっています。
技術だけでなく、人間関係などもコアコンピタンスになります。たとえば「長男が建設会社、次男が不動産会社、三男が建物管理会社」という社長同士の関係があれば、自動的に仕事が回ってきます。あるいは地場産業間の結束もコアコンピタンスになります。特許とか手数料といった法律や規制をコアコンピタンスにしている企業も少なくありません。社長の人脈もコアコンピタンスの候補に大切です。コアコンピタンスを自社内だけで考えず、取引先や業界を見て考えるのがいいと思います。ただし、ビジネスにつながる信頼関係がある人脈でなければ、本当のコアコンピタンスではありません。

あなたの会社は主導権を握っていますか

戦略で最も重要なのは、冒頭3つめの、「主導権」を握ることです。この主導権を握る代表例が、胴元ビジネスです。ビジネスの胴元をめざしましょう。たとえばコンビニチェーンは本部が胴元で、子どもであるフランチャイズ加盟店を絶対権力で服従させています。自動車メーカーは、系列部品メーカーや販売ディラーをコントロールしています。
胴元ビジネスは、親である胴元が儲かるのです。逆に言えば、主導権を握られている限り、加盟している子どもはいくら頑張っても大幅な利益は出ません。きちんと利益を得るためには主導権を握ることが不可欠です。自分が主導権を握っている部分は何なのかを総点検してみましょう。

「うちにしかできないもの」を持って下さい

主導権を握るには、コアコンピタンスを活かすことです。たとえば、自社にしかできないコア技術やコアパーツを持つのです。大企業でいえば、ソニーが、ソニーしかできないコアパーツを持っています。ソニーは多くの分野で「ソニーじゃないとできない」コアパーツ、コアユニット(複合部品)を持っています。ゆえにソニーは、今後復活の可能性は高いと思います。
中小企業の場合は、どこかの傘下に入らざるを得ないかもしれません。ただし、「自社しかつくれない」製品や部品を持つことが大事です。そうすれば、価格の主導権、ビジネスの主導権を握ることができます。

中小企業に欠けている点を補うには、具体的に何をどうすればいいですか?

これに関しては、大きく分けて3つあると思います。
1つめは、「タイムマシン経営」で海外視点を持つことです。
2つめは、コアコンピタンスを水平展開した隣接異業種探しです。
3つめは、安売り競争に巻き込まれないことです。

「タイムマシン経営」でグローバル市場に進出できる

市場拡大のチャンスは今でもアジアにあります。
アメリカの成功例を日本に導入するのが「タイムマシン経営」です。たとえばフランチャイズシステムを導入したセブン・イレブンや、iPhoneをいち早く日本に導入したソフトバンクなどです。しかし、中小企業には、日本の成功例をアジア諸国に導入する日本流「タイムマシン経営」がおすすめです。
日本流「タイムマシン経営」とは、日本の成功例を海外、特にアジアに展開することです。
日本流「タイムマシン経営」の有望展開先はタイやカンボジア、ラオスなどです。特に親日派のアジア諸国に視察に行ってみるといいと思います。自社と自社周辺でコアコンピタンスを3つ前後に絞って、日本流「タイムマシン経営」の糸口を見つけて下さい。

隣接異業種にチャンスがある

中小企業は何でもゼロから立ち上げるのが難しいため、隣接異業種を探すことが大切です。コアコンピタンスを水平展開し、隣接異業種で新商品開発や新ビジネスを考えてみて下さい。
そのとき、「自社はどこで利益を上げることができるのか?」という儲けの仕組みも考え直しましょう。「何となく儲かるだろう」というのでは、すぐにダメになります。

100円ショップは「定価販売」だから儲かる

安売りで長期に成功した会社はないことに注意して下さい。安売り競争に陥ると、牛丼業界や家電業界のように疲弊してしまいます。
100円ショップや100円寿司がヒントになるでしょう。一見安売りのようで、実は定価販売なのです。100円ショップとは、「100円より値下げしませんよ」と宣言しているのです。100未満に値切られることはありませんから、コストを抑えれば利益は出るという利益方程式が成り立ちます。ユニクロもヒントになります。入口は安売りでしたが、徐々にブランド戦略、高価格戦略に変えています。

戦略と戦術の決定的な違いと、重要性は何ですか?

1つめは、競争を回避できる分野をドメイン(事業領域)として決めること。
2つめは、競争ルールを支配できるポジション(分野)を確保すること。
3つめは、戦略とは経営資源の資源配分の問題であるということ。

大企業の考えつかない隙間を見つけて下さい

戦術よりも戦略が大事です。戦略の狙いは長期的で継続的な競争優位を確立することですが、そのためには上記の3つが重要だと、戦略論の大家、ポーターは言っています。
1つ目は、ニッチ市場を選ぶということです。たとえば山の北側は北風が吹いて寒く、南側は太陽がポカポカで暖かいとすれば、誰でも北風(競争)を回避できる南側に住みたいですよね。それがニッチ(隙間)市場です。大企業があまり考えない分野を、自社のコアコンピタンスを活かせる事業領域で開拓していきましょう。
また、2つめの「ルール支配」はアメリカの得意技です。たとえばアップルはスマートフォンで携帯電話のルールをひっくり返しましたし、iTunesはCDの流通を不要にしつつあります。

「やること」と「やらないこと」を明確にする

戦略は、人、モノ、カネ、情報の配分でもあります。いわゆる選択と集中です。具体的には、「やることを決める」ことと「やらないことを決める」ことです。
大企業では、「やること」を決める代表例はM&A(合併と買収)ですが、中小企業では、どの事業に注力するかになります。事業分野や事業地域を重点化していくことですね。「やらないことを決める」のは撤退を意味します。

戦術はマネされるが戦略はマネされない

いかに優れた戦術でも、戦略には勝てません。
戦術とは、「できあがった製品や技術」「品質向上やコストダウンなど今までの延長線上で努力すること」ですが、いずれも簡単にマネができます。例えば製品や技術は半年から1年で盗めます。完成品があれば開発にムダがなくなるからです。
これに対し、戦略はマネできません。戦略は長期的であり、例えば3年経って追いついた頃には、競合は次のステージに進んでいるのです。
重要なことは、まず「戦略」を立てて下さい。現状の延長線上に解があると信じて過去に呪縛されるのは、戦略なき戦術ということになります。

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プロフィール

西村克己
西村克己

株式会社ナレッジクリエイト代表取締役
経営コンサルタント

1982年東京工業大学「経営工学科」大学院修了。富士フイルム株式会社を経て、90年に日本総合研究所に移り、主任研究員として民間企業の経営コンサルティング、講演会、社員研修を多数手がける。2003年より芝浦工業大学大学院教授、08年より同大学院客員教授。現在、株式会社ナレッジクリエイト代表取締役。専門分野は、経営戦略、戦略思考、プロジェクトマネジメント、ロジカルシンキングなど。
主な著書に、『持たないで儲ける会社』 (講談社+α新書)、『1分間ドラッカー』、『1分間コトラー』『1分間ジャック・ウェルチ』(以上、SBクリエイティブ)、『ゼロから始めるプロジェクトマネジメント大全』(大和書房)、『問題解決フレームワーク44』『戦略決定フレームワーク45』(学研パブリッシング)、『ポーター博士の「競争戦略」の授業』(かんき出版)など著書120冊以上。

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伸びる会社の社長の条件50

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