真中流マネジメント

組織における“天才”の必要性――燕の天才捕手・古田敦也がチームに与えたもの

2016.09.23 公式 真中流マネジメント 第13回

天才が周囲に与える影響

蓄積された経験の「引き出し」がモノを言う
突出したプレイヤーが周囲に変化をもたらす

これはすべてのポジションについて言えることかもしれませんが、とくにキャッチャーは「経験がモノを言うポジション」だと思います。ここでいう経験とは、「ピンチにおける引き出しの多さ」ですね。
ベテランになればなるほど、ピンチを上手に切り抜けていくものです。若手の場合、1つミスをすると途端にパニックに陥ってしまうことがよくあります。中堅の選手であっても、例外ではありません。ところが古田さんは、そういう様子をほとんど見せたことがない。試合に出続ける中で蓄積した、豊富な経験の「引き出し」によって、いかなるピンチでも冷静に対処していたように思います。さきほどの、ランナー出塁のケースなどはその典型でしょう。

さて、こうした天才的なプレイヤーは、実は周囲にも良い影響をもたらします。選手同士はライバルでもありますから、突出した活躍を見せる仲間がすぐ近くにいれば、どうしても意識せざるを得ません。
それは、時に嫉妬のような感情を生むこともあるでしょうが、いずれにせよ、選手たちはそのプレイヤーに触発されて「なぜあんな成績を残せるのだろうか?」「どうすればあの人を超えられるか?」「彼と同じチームで、自分はどのポジションでなら生き残れるだろうか?」といった問題意識を持つようになります。
結果的にそれは、個々人の意識に変化をもたらし、果ては行動までも変えることにつながる。私はそう考えています。つまり突出したプレイヤーを軸に、周囲に変化が起こるのです。

古田さんというと、一般的には野村監督に鍛えられてきた「叩き上げ」「努力の人」のようなイメージがあるかもしれません。しかし私は、彼ほど天賦の才に恵まれた選手はいないと思っています。「天才と呼べるプレイヤーは?」、そう問われれば、迷うことなく、古田さんを一番に挙げますね。

取材協力:高森勇旗

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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