チームを引っ張るリーダーとはいえ、それはあくまで選手の話です。チーム全体を見るのは、やはり監督やコーチなどの首脳陣であると私は思っています。
私が現役の頃は、古田さんや池山さん、宮本慎也など個性派揃いであり、みながリーダー格のようなものでした。そのため、野村監督をはじめとしたコーチ陣は、あれこれと何でも指示したりはしませんでしたが、ここぞというところでやはりリーダーシップを発揮されていたと思います。
野村監督の統率力がフルで発揮されるのは、実はシーズン中というよりも、チーム作りの最初の段階、すなわち、春季キャンプ期間中でした。
キャンプ中、野村監督は選手たちと毎日ミーティングを行います。そこで、野球に関してはもとより、「一人の人間としてどうあるべきか」といった話題を中心に、みっちり語って聞かせてくれるんです。
私が監督からいつも言われていたのは、「真中満-野球=ゼロになるな」ということ。つまり、野球以外のことにもしっかり触れて、外の世界を見ることのできる人間になれるかどうかを、常に問われていたわけです。
毎日1時間、キャンプ期間中で合計20時間超。そういった話を通じて監督の考えをじっくりとチームに浸透させていくのです。それだけ聞いていると、監督が何を考えているのか、何を言いたいのか、私たち選手にどうなってほしいのか、そういったことが分かるようになります。
そうすると、シーズン中はそこまで監督とコミュニケーションをとらずとも、不思議と意思疎通できるようになるんですね。それはおそらく、キャンプ期間中のコミュニケーションを通じて育まれた信頼関係によるものだと思います。反対にシーズン中は、野村監督の意図を汲んだコーチ陣が統率力を発揮します。そういう役割分担が自然と出来ていました。
これが、野村流のリーダーシップなのでしょうね。