今年、ヤクルトは主力選手の故障が相次ぎました。そのために、ベストメンバーを組むことができず、結果的に最下位を低迷することとなりました。しかし、だからこそ伸び盛りの若手選手にとっては大きなチャンスを得ることができ、試合に出場しながら、さまざまなことを学んでいきました。たとえば、二番センターを任されることが多かった山崎晃大朗、八番・ショートで起用された奥村展征など、将来のレギュラー候補が順調に成長したのは、今季の大きな収穫だと思います。
今シーズン、一度、山崎と奥村に注意をしたことがあります。試合終了後、彼らは早々に風呂に入って、帰り支度をしていました。そのときに、僕は言いました。
「お前らずいぶん風呂に入るのが早いな。きちんと、試合後のマッサージはしたのか? 筋肉を休めるためのアイシングはしたのか? 明日に向けての身体のケアは万全なのか?」
もちろん、彼らがアイシングも、マッサージもしていないと知った上での発言です。さらに、僕は続けます。
「試合が終わったら、もう練習はしなくてもいいのか?」
すると、彼らの顔には「朝早くからたくさん練習しています」という思いが浮かんでいます。そこで僕は、諭すように言います。
「いいか、朝だけじゃなくて、試合後すぐだからこそ身につく練習もあるんだぞ。あるいは、これからレギュラーとして年間を通じて活躍しようと思うのなら、試合後の身体のケアは本当に大事なんだぞ。若いお前らがそういう意識をしっかり持っていれば、それがヤクルトの伝統となって、これから入団する新人選手たちのいい手本となるんだぞ」
ここで、僕が意識しているのは、決して頭ごなしに説教をしたり、怒ったりしないことです。あくまでも彼らが自分の頭で考えて、自らの意思で積極的に練習をしたり、ケアをしたりするようになってほしいと思っています。それは、ある意味では将来への置き土産だと、僕は考えています。僕自身、いつまでヤクルトのユニフォームを着ていられるのかわかりません。勝負の世界では、結果が出なければ自らの意思で、あるいは球団の意志によって、ユニフォームを脱がなければならない日が、必ずやってきます。
僕はヤクルトに入団し、途中で楽天に移籍しましたが、ヤクルトで引退して、今も「スワローズ」のユニフォームを着ています。それだけ、この球団にはお世話になったし、愛着もあります。だからこそ、将来を背負って立つべき若い逸材を育て、彼らが新しいヤクルトの伝統と歴史を築いてほしいと思っています。こうした積み重ねが、本当に強いチームを生み出すことになり、そして、それこそが球団に対する僕なりの恩返しなのだと考えています。
17年シーズンも、いよいよ大詰めを迎えています。退任される真中監督の有終の美を飾るためにも、どんなときでも応援して下さるファンの方々のためにも、最後の最後まで全力を尽くして戦いたいと思っています。応援、どうぞよろしくお願いいたします。
取材協力:長谷川晶一
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