二軍コーチとして、若い選手たちと汗を流す日々は充実していました。一軍の選手が、ある程度完成された存在だとすると、二軍選手の場合はまだまだ未完成の存在です。そのために、若い選手たちに対してはいろいろなアプローチ方法が必要になります。体力的にも、技術的にも、精神的にも、さまざまな側面からきちんとその選手の課題や問題点を見極めた上で、適切な指導を行う必要があるのです。
2013年、二軍コーチの1年目。この頃、山田哲人はまだ一軍と二軍を行ったり来たりする入団2年目の若手選手でした。それでも、入団直後から彼は光っていました。打撃フォームに関してはまったくいじる必要のないほどの完成度を誇っていましたし、ボールにコンタクトするまでにムダな動きがなく、身体の力を上手にボールに伝えることができていました。「数年後にはすぐに3割を打てるだろうな」と感じさせるほどでした。
僕がコーチになった当時、山田はまだファームで六番、七番打者として下位を打っていました。しかし、あるとき三番打者が空白となり、「代わりに誰を三番にしようか?」という状況になったときに、僕は「山田に任せてみましょう」と、当時の真中二軍監督に進言しました。なぜなら、下位を任されるのと、打線の中心であるクリーンアップを任されるのとでは、その責任感がまったくと言っていいほど違うからです。才能の塊である山田には、早い時期からその責任感を持ってほしい。そんな思いからの進言でした。
山田には「おまえが打てばチームは勝てるんだ」とか、「チャンスの場面でお前が打てなかったから負けたんだ」と、より責任感を強くするために声をかけ続けました。そしてその後すぐに、山田はスーパースターへの階段を駆け上っていきます。先ほどの例で言えば、このケースは体力的、技術的アプローチではなく、精神面でのアプローチです。選手によって、適切なタイミングで、適切なアプローチをするのが二軍のコーチの重要な役割だと実感したケースでした。
選手に注意やアドバイスを与える際に気をつけていることは、決して押しつけることなく、自発的に選手自身が考え、自ら行動するように誘導することです。何かアドバイスを与える際にも、「オレはこう思うけど、お前はどう思うんだ?」と尋ねて、なるべく自分の言葉で意見を述べてもらうように仕向けています。その際に大切なのは「対話」です。対話によって、本人の言葉で「僕はこう考えます。だから、こういう練習をします」と自発的に話してもらうことで、練習の成果はグンと変わってくるし、継続力も大きく変わってきます。
この点については、以前この連載に登場した三木肇ヘッドコーチも同様の考えを持っています。これはチームとしての決まり事というよりも、僕は三木コーチとの野球観が似ていることの証明だと思います。彼とは同級生ということもあり、現役時代から深い親交を持っていたことも影響しているのかもしれません。ある選手に対して三木コーチが厳しく叱責した場合には、僕が優しくフォローしますし、もちろんその逆のケースもあります。そういう役割分担は自然にできていると思います。