真中流マネジメント

強いチームには、「文化」がある

2016.07.22 公式 真中流マネジメント 第9回

私はチームの選手達に対して、「せっかくプロ野球に入ったのだから、全員に結果を出してほしい」と思っています。ですが、結果を出すも出さないも、結局のところ選手自身にかかっています。監督やコーチの顔ぶれは、一定期間ごとに変わります。それは、チームの方針やコーチの指示・アドバイスの内容がそのつど変わる可能性があるということ。そうした環境変化の中では、もちろん新しい方針や助言に柔軟に耳を傾けることは大切ですが、それ以上に、自分自身でしっかりと考え、対応していくことが肝要です。

かくいう私だって、いつまでこのチームの監督でいられるかわかりません。仮に私がチームを離れても、自分の頭で考えて練習し、結果を出すことができる選手を育てたい。そんな思いもあって、「自主性」というものを重視しているのです。

自主性を高める文化をいかに醸成するか

うっかり陥りがちな「しつけの押しつけ」
リーダーは自らの行動で率先して規範を示す

監督に就任した昨シーズン当初、私はそのヤクルトの文化に問題が生じていると感じました。選手それぞれは能力もありモチベーションも高かったのですが、コーチが選手に対して、色々と口を出しすぎているように見えたのです。私はまず、この状態を打開するための取り組みを考えました。以前にもお話ししたとおり、コーチ陣には「なるべく練習の場にいないでくれ」とお願いし、選手と適度な距離感を取ってもらうようにしたのです。

そして私も、練習場にはできるだけ遅く来て、誰よりも早く帰るように努めました。これにより、選手はコーチや監督の存在を意識せず、ある意味のびのびと練習に臨むことができ、結果的に自分で考えて行動するという自主性、すなわち代々受け継いできた本来のチームの文化を、取り戻すことができたのだと思います。

ここで少々話は変わりますが、「しつけ」についても少し触れておきたいと思います。しつけは、親が自分の子供を教育するときなどに、よく用いられる言葉ですね。私はこのしつけに関しても、さまざま思うところがあるのです。

誰でも小さい頃、「人に会ったらあいさつをしなさい」「何かをしてもらったらお礼を言いなさい」「悪いことをしたら謝りなさい」などのしつけを、親や周囲の大人から受けたのではないかと思います。そして、親になった人は、自らも我が子にそのようなしつけをしているのではないでしょうか。

しかし、冷静に考えてみると、これらのしつけは「押しつけ」になっている可能性があります。どういうことかと言うと、他人に会うたびに親から口すっぱく「あいさつをしなさい」などと言われると、子供はあいさつという行為を何の考えもなく反射的にするようになってしまうのではないか、ということです。

そもそもあいさつや謝辞は、誰かに強要されてするものではありません。相手に対して、自発的に、心を込めてするもののはずです。それが、親から「やれ」と言われ続けることで、とりあえず「そうするもの」というふうに考えてしまう、あるいは染みついてしまうかもしれないのです。

本来しつけというのは、親が率先して手本を見せるべきものではないかと私は考えています。親がきちんとした行動をし、その背中を見て、子供が自ら学び、誰に言われるでもなく実践していく。そうあるべきだと思います。

ですが、「しつけの押しつけ」、これは実は野球のチームでも往々にして起こることなのです。コーチが、選手に対して「良かれ」と思ってやっていることが、知らず知らずのうちに自らのエゴを押しつけていた、ということがよくあります。そのような事態を防ぐには、チームのトップに立つ監督やコーチ、またはレギュラーの選手が、率先して規範的な態度をしてみせることが重要なのです。

チームの行動に対して強い影響力を持つ「文化」というものは、誰かの押しつけによって作られるものではありません。監督やコーチ、チームの中心選手など、いわばリーダー的役割を担う存在が、自主的に行動をすることによってそれが周囲のメンバーに広がっていき、いつしかチームの文化となるのです。

取材協力:高森勇旗

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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