アマチュア時代はもちろん、プロに入ってからも、僕自身もさまざまなコーチの指導を受けました。そして今、自分がコーチになって「理想としているコーチ像」を模索している最中です。その際に、自分なりに大切にしているポイント、目指している理想像があります。まずは「ぶれない人」。日々、言っていることが違ったり、そのときの感情に任せて指導をされたりしたら、選手としてはたまったものではありません。常に、どんなときでもぶれない姿勢があれば、それが信頼感へと変わっていきます。
そして、「ダメなことはダメ」と言える一方で、「いいときには一緒に喜んでくれる人」。つまり、こうした姿勢は「オレはいつでも真剣にお前と向き合っているんだぞ」と伝えることにもつながると僕は思っています。野球の指導者とは、単に野球技術の指導力だけあればいいわけではありません。指導力以外の信頼感の構築も絶対に欠かせません。そのためには「真剣に向き合うこと」を忘れてはいけません。
僕としては「世代差」を意識することなく、選手の年齢がどうであれ、いつも「個人対個人」であることを意識しています。とは言え、育った時代や環境によって、人格形成は大きく変わってきますから、昭和世代の僕と平成世代の今の選手たちとの間には、もちろん世代差、カルチャーギャップはあります。近年では、いわゆる「ゆとり世代」と呼ばれる選手も、続々とプロ入りしています。
そこで、僕が痛感しているのは、「きちんと叱ること」の重要性です。今の若い選手たちは、大切に育てられ、ほとんど叱られることなく育ってきているかもしれません。つまり、叱られ慣れていないかもしれない。だからこそ、きちんと叱ってあげることは、彼らにとって新鮮であると同時に、正しく叱ることができれば、「こんなにもコーチは自分のことを真剣に考えてくれているのだ。もっと頑張ろう」と十分な効果を期待できると思うのです。
その際に僕が心がけているのは、一人一人に「真剣に向き合うこと」です。選手として、人間として、この子にどんな風に成長していってほしいか、それを僕なりに真剣に考え、そのために僕ができることがあれば、本気で、一生懸命取り組む。中途半端な姿勢では務まりません。
たとえば若手選手に、僕はまずこんな問いかけをします。
「野球を通じて、縁あって、こうやってお前と知り合えた。だからオレは、お前の力に少しでもなれるように全力を尽くすよ。で、お前はどうする?」
すると、選手たちは意気に感じてくれ、「僕も頑張ります」と言ってくれます。それを受けて、僕は言います。
「今、お前が自分で“頑張る”って言ったんだぞ。少しでもいい加減に練習したり、ヤル気が感じられなかったり、手を抜いたりしたら、オレはお前の指導も考えるからな」
このやりとりをしたことで、しばらくの間は選手も必死で練習をします。ところが、しばらくすると、当初の情熱も覚めてきたりして、惰性で練習をするようになってくることもあります。そんなときに、僕はビシッと叱るようにしています。
「最初に約束したことを忘れたのか? もう、お前の練習にはつき合わないぞ」
すると、選手はまた本気になって練習を始めます。この繰り返しが何度か続いた後に、言われなくても自主的に練習を始めるようになります。それでもなお、同じことを繰り返すときには根気強く叱ることもありますけど(笑)。
一人一人の選手に真摯に向き合うのは、ものすごくエネルギーのいることだと思います。でも、選手に成長して欲しいという気持ちがあるのと同時に、僕自身も選手への指導を通してもっともっと成長していきたいと思っています。そんな気持ちを忘れずに、僕はこれからも選手たちと一緒に仕事をしていくつもりです。
全3回にわたって連載させていただきましたが、プロ野球の「ヘッドコーチ」の仕事について、多少なりともご理解いただけたでしょうか。現在、チーム状態は決していいとは言えませんが、それでもまだ投手陣も野手陣ももちろん監督をはじめとする我々首脳陣も、誰一人として優勝を諦めてはいません。今年、真中監督を胴上げすること。僕のその最大の目標に向かって、まだまだ頑張っていきたいと思っています。
取材協力:長谷川晶一
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