そうした感情のコントロールは、首脳陣とミーティングをするときでも同じです。監督である私が真っ先に発言するのではなく、まずは各コーチに自分の思っていることをすべて話してもらうようにしています。コーチが感じていることを包み隠さず話してもらえる雰囲気を作るためにも、できるだけ自分の意見や感想は抑えること。私が理想としているのは、「コーチたちから、ウソ偽りのない本音をすべて聞いた上で、最終的には監督である自分が決断を下す」という姿です。
正しい判断を下す際に重要となるのは、正確な現状認識と状況把握です。そのためには、選手たちと密に接しているコーチ陣が感じている課題や不満を、私が正確に知る必要があります。だからこそ、コーチたちにはすべてを包み隠さずに話をしてほしいのです。そもそも、本当は言いたいことがあるのに、それを吐き出せないというのは、当人にとって、とてもストレスに感じるもの。どうせ一緒に仕事をするなら、そんなストレスなどない方がいいに決まっています。幸いにして、私の周りにいるコーチたちはみな、本音を包み隠さず話せていると思っています。
就任以来、ずっと私を支え続けてくれている三木(肇)ヘッドコーチは、私よりも7歳年下ですが、彼は自分の意見をハッキリと口にしてくれるので、とても助かっています。さらに、他のコーチとの調整役も買ってくれているので、どんなに些細なことでも私に届くように気を遣ってくれています。彼のおかげで、コーチミーティングはいつも活発な議論が展開されます。みんなで同じ課題を共有し、その解決に向けて、忌憚なく意見を述べ合う。コーチ陣の結束があってこそ、チームが進むべき方向もきちんと定まり、明確な目標設定を全員で共有することが可能となるのです。
感情を抑えながら、選手たちと一定の距離を取り続けることは、確かに大変です。実際、監督になって以来、一人の時間が増えました。監督就任以前から、「監督は孤独だ」という話は聞いていましたが、実際に自分が監督になってみると、やはり、この言葉は正しいと感じました。ですが、これは別に野球の監督に限った話ではなく、「経営者は孤独だ」というフレーズがあるように、ある程度のキャリアを積んで、多くの部下を率いることになった立場の人間であれば、業種に限らず感じることではないでしょうか?
実際に、現役時代には「この後、食事でも行かない?」と気軽に誘えていたのに、いざ監督になってみると、なかなか誘いづらくなってしまいました。私の何気ない誘いが、選手やコーチにとっては時に強制力として働いてしまうからです。その点はかなり注意するようにしていますね。だから、最近では「別に誘っているわけじゃないけど、今日はこの後、何か用事があるの?」と、最初に聞くようにしています。そして、もしも、何も用事がなければ、「じゃあ、食事にでも行かない?」と誘うようにしています。これも、現役時代には経験したことのない、私なりの気遣いです。
こうした言葉の掛け方、距離の取り方を継続していくのはなかなか難しいことですし、貫くには心の強さも必要です。ですが、常にこういったメンタリティでマネジメントしていくことが、監督として大切なことなんじゃないかと思っています。
取材協力:長谷川晶一
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