十数年前のある日、デート中に“遭遇”した落語に衝撃を受け、大手商社マンから突如、落語家の道へと進む決心をした立川志の春氏。一方、お寺に生まれ幼少期から周囲の期待を一心に受け仏教伝道の道を歩みつつも、その可能性をさらに広げるため単身渡米した、僧侶の大來尚順氏。ともにその経験を活かした英語での落語や説法など、これまでにないユニークな方法でそれぞれの道を切り拓いています。落語と仏教、“古典”を土俵にする二人から見えてくる挑戦とは。「道を極める」スペシャル対談、前編をお届けします。(後編は1月16日公開予定。)
(構成・文/沖中幸太郎)
立川志の春(たてかわ・しのはる)
落語家。立川志の輔の三番弟子。1976年大阪府生まれ、千葉県柏市育ち。米国イェール大学卒業後、3年と3ヶ月、三井物産の鉄鉱石部にて勤務。偶然通りがかりに触れた落語に衝撃を受け、2002年10月に志の輔門下に入門。11年1月、二つ目昇進。通常の落語だけでなく、留学経験を活かした英語落語での公演も行う。著書に『誰でも笑える英語落語』(新潮社)、『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか?落語に学ぶ仕事のヒント』(星海社新書)、『自分を壊す勇気』(クロスメディアパブリッシング)。 |
大來尚順氏(以下、大來氏):はじめまして。この対談の前に、志の春さんのご著書『誰でも笑える英語落語』を電車の中で読ませてもらって、面白すぎてひとりニヤニヤ笑ってしまった僧侶の大來尚順です。
立川志の春氏(以下、志の春氏):本でも笑っていただける。噺家(はなしか)冥利に尽きるお話で嬉しいですね。ぼくは最近、小学生相手にマクラでウンチ話をよくする、落語家の立川志の春です。お会いできるのを楽しみにしていました。
大來氏:いきなりウンチ話からスタートです(笑)。
志の春氏:ちょうど今日も、午前中に千葉の小学生に落語会をさせてもらっていたんです。それで、やっぱり小学生にはまず、最初でいかに興味を持ってもらうかが大事でして。オナラ、ウンチは特に低学年児童のキラーワードなんです(笑)。今日のテーマは「挑戦」ということですから、そのために必要な工夫の話からということで……。
大來氏:子どもに落語。確かに工夫が大切ですね。
志の春氏:ええ。大人のお客さんの時ももちろん掴みである“マクラ”は大切なのですが、子どもの場合、落語に対する予備知識や共通認識がほぼない状態からなので余計に。まずは簡単で身近な話題から「自分ごと」に感じてもらうことが何よりも大事でして……。積極的に参加してもらうべく、例えば、仕草クイズを出すなど、「ウンチネタ」だけでない工夫もさせてもらっています。
大來氏:私も小さな子どもたち相手に説法をさせて頂くこともあるのですが、実のところ、話題のヒーローや人気のアニメなどの時事ネタだけでなく、意外と「ウンチネタ」の出番は多いんです。「これが出ないと人間は生きていけません。合掌」と。まずはそこでひと笑い(笑)。そこからいつの間にか話に入っていけるようにしています。
志の春氏:そうやって聞き手の、それぞれ頭の中で「絵」を浮かべて笑ってもらう。落語も、見るではなく聴く。語り手の一方的なしゃべりでは通用しないし、聞き手側の想像する行為が必要なライブなんですね。そういう意味では、仏教の説法と落語って、とても共通項が多い。
大來氏:そうですね。もともと、安楽庵策伝(あんらくあん・さくでん)という戦国時代〜江戸時代の僧侶が、難しい説法を、人々に分かりやすく親しみやすい「笑い話」を含めたものとしてはじめられたんですが、それが落語のルーツと言われているんです。また、落語では“お坊さん”は、よくネタにされていますし(笑)。仏教と落語は切っても切り離せない関係にありますよね。
以前もある落語家さんと“高座バトル”と題して、共通のテーマについて落語と説法をするというコラボレーションのイベントをしたことがあります。落語家の方には、ずいぶん学ばせてもらっているんですよ。
志の春氏:いかに興味を持っていただけるか、観客を眠らせないか(笑)。そして好きになってもらえるか。「アイツ嫌いだな」って思われたら、説法も落語も聴いちゃもらえませんしね(笑)。