ある日、明るく活発な双子の兄とは正反対、彼女にも簡単にフラれるような地味眼鏡男子の息吹は酔っ払い、双子の兄のフリをした。酔い潰れ、翌日、目を覚ますと、なぜか自分の好きなロックバンドのギタリスト、真澄と一緒のベッドで眠っている。突然起きた天変地異はそれだけで終わったように思えたけれど。
数日後、息吹は真澄の口から思いもよらないことを言われる。
「歌を、うたってみないか?」
けれど、息吹は自分が兄のフリをしていることを、まだ、言えずにいた。
――彼の声は低いのに優しくて、指先は硬く不思議な感触で、全ては夢のようにしか感じられなかった。