彼女はおとうと想いだった。この世界の、誰よりも──
高校二年生の荒浜なぎさには、大好きなおとうとがいた。自分のことをおんなの子だと思い込んでいたおとうと。世界でいちばん、大切だったおとうと。去年の六月、自殺で亡くしてしまったおとうと。その日から、なぎさの毎日は灰色になった。けれどそんななぎさも、恋に落ちた。灰色の毎日が、ようやく色彩を取り戻した。しかし、なぎさはまだ知らない。自分のおとうとへの想いがどれだけ歪んでいたのかを。その胸に空いた、虚ろな穴の闇の深さを。
文字数 90,966
最終更新日 2024.05.24
登録日 2024.04.27