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4巻
4-1
しおりを挟むゲーム時代の戦友である、サポートキャラクターナンバー3のハイビースト、ジラートとの500年振りの再会。それに続く決闘と死別――。
そのジラートの葬儀で姿を見かけたのは、サポートキャラクターナンバー4のハイドラグニル、シュバイドだった。
ファルニッド獣連合を訪れたシンは、かつての仲間との別れと出会いという現実に直面することとなった。
ファルニッドの首都エリデンで行われた葬儀から一晩明けて、シンはサポートキャラクターナンバー1のハイエルフ、シュニーの案内で、とある場所に向かっていた。
頭上には相棒のエレメントテイル、ユズハ。前方には現獣王ウォルフガングと、その娘クオーレ。シュニーの隣にはエルフのティエラ。
ティエラの相棒となったモンスター、グルファジオのカゲロウは【影潜】というモンスター用スキルで、ティエラの影に潜っている。
屋敷を出てから15分ほど歩くと、2階建ての建物が見えてきた。葬儀に訪れた他国の代表や使者が寝泊まりする場所だ。
シンがここを訪れた理由は、言うまでもなくシュバイドに会うためである。さすがにシンたちのいる屋敷に呼ぶわけにはいかなかったので、こちらから出向くことになったのだ。
「そう言えば、シュバイドってやっぱり、ジラートみたいに王の位置づけなのか?」
「いえ、今では王家とは縁を切っています。ただ、最高ランクの冒険者として有名ですね」
シュニーによると、竜皇国キルモントの初代竜王となったところまでは、ジラートの経歴と似通っているらしいが、国が安定してからは割と自由気ままに過ごしているそうだ。
キルモントの冒険者ギルドに所属しており、聖地からモンスターが溢れたときなどは、一般の冒険者に交じって戦っているのだとか。
「……いいのか? それって」
「王家も納得しているようですので、いいのではないでしょうか。シュバイドの場合は国というよりも、ドラグニルを中心としたギルドに傭兵として参加していただけのような形ですし」
初代の王になったのも、もともと世情が安定するまでの、旗印的な意味合いが強かったらしい。
ジラートのようにバラバラだった部族を集めていったわけではないので、意外とすんなり引き継ぎが行われたようだ。
王家と縁を切っているというのも、対外的な意味合いなのだろう。
「もともと期間限定だというのは明言していたようです」
「よく国民が納得したな」
「2代目もシュバイドとともに先陣を切っていた方でしたので。本来はその2代目が初代を務めるはずだったようです。なんでも、建国間際の最後の戦いで負傷したとか」
「代理みたいなものだったってわけか」
王がそんなにあっさり代わっていいものかと思ったシンだが、何やら事情があったようだ。
シュニーもそれほど込み入った話までは知らないようなので、あとは本人と会ったときにでも聞こうということになった。
ちなみに今回は、ジラートがシュバイドの友人だったこともあり、キルモントの代表として選出されたらしい。
「にしても、混んでるな」
ほどなくして目的地に到着した一行。
屋敷を見てシンが最初に驚いたのは、その混雑ぶりだった。
ジラートの訃報を耳にしてやってきた者は多く、屋敷の許容量をオーバーしかけているのがシンにもわかる。これはファルニッドからしても想定外だったのだろう。
そういえば、参列者を誘導していた者たちはかなり消耗している様子だったな、とシンは葬儀の様子を思い出す。
ほかの宿に泊まってもらえばいいとも思うが、おそらくもう空き部屋はないのだろう。シンに思いつくようなことを、まだやっていないとは思えなかった。
「初代と戦場を共にした方々は多く、今では各国の重鎮や、将軍職に就いている方も少なくありません。数を絞ったのですが、どなたも行動力があるので……」
どこか疲れた様子でウォルフガングがそう口にする。
さすがにジラートの知人全員を招くのは無理だろうと予想はしていたようだ。といっても、想定の穴をすり抜けてやってくる者が後を絶たなかったらしい。
彼らの行動力は間違いなくジラートの影響だと、ファルニッド上層部は頭を抱えたとか。
「とはいえ、シュバイド殿は別格です。長年にわたる同盟国の代表でもあらせられますので、キルモントの使者の方とともに、ここよりさらに奥の別宅に宿泊していただいております」
やはりシュバイドの扱いは特別のようだ。
ウォルフガングに続いて敷地の奥へ進むと、明らかにグレードの違う建物が見えた。VIP専用とでもいうような、シンにもわかる高級感が漂っている。
呼び鈴を鳴らすと、執事と思われる初老の男性が現れた。
ウォルフガングが用件を話すと重厚な音を立てて扉が開かれる。
いざというときに立て籠れるようになっているのか、よく見れば扉の表面はアダマンティンでコーティングされていた。
「では、シュバイド様をお呼びいたしますので、皆さまはこちらでお待ちください」
応接室に一行を案内すると、執事はシュバイドを呼びに行った。
シンはすでにシュバイドの存在を感知していたが、呼んでくれるというので大人しく待つことにする。
「私はキルモントの使者との会談がありますので、これで失礼します。今後、何かあればクオーレにお申し付けを」
執事が退出すると、ウォルフガングもクオーレを残して退出した。
ジラートがいなくなった今、名実ともにウォルフガングが獣王だ。シンたちに同行したのも、用事のついでだったのだろう。
「今さらなんだが、王様に丁寧語使わせてるのってまずくね?」
「今のところ、ウルと会っているのは公の場以外ですから問題ないでしょう。私も、多くの王族から丁寧語で話されますし」
公式の場となれば王としての態度で接してくる、とシュニーは言う。そのあたりはしっかりとわきまえているようだ。
「……まあ、権力以前に、実力的に上位者だからな」
自国のためにシンたちを利用しようという意図が見えないのは、ウォルフガングが参謀ではなく武人タイプだからだろう。ジラートの主に失礼な態度は取れない、という理由もあるかもしれない。
しばらくして執事とともに、シュバイドが姿を現した。
黒曜石のような鱗と真紅の瞳、身長は2メル半以上ある巨漢だ。ドラゴンを人の形にした状態がデフォルトの外見なので、初対面だと少々怖いと感じる者もいるだろうな、とシンは思った。
「えーと、久しぶり?」
「は、此度のご帰還、心よりお喜び申し上げる。我はこれより主の旗下へと復帰し、敵を貫く矛となりましょう」
「……ああ、そういえば、こういうやつだっけ……」
再会早々、跪いて何やら言い始めるシュバイドに頭を抱えるシン。
設定上、シュバイドはシュニーとはまた違った意味で生真面目なのだ。どことなく芝居がかっているように見えるのは、メインジョブが聖騎士だからか。
執事の男性はシュバイドを案内した後、すぐに退出していたので、見られることがなかったのは幸いか。
「えーとだな。シュニーにも言ったんだが、せっかくの再会だし、堅苦しいのはなしで頼む」
「む、しかし……」
「シュバイド、シンがそう言っているのですから、それでいいのですよ。以前とは違うのです」
言いよどむシュバイドにシュニーが声をかける。
シュニーが主をシンと呼び捨てにしているのを聞いて、シュバイドは「以前とは違う」という言葉の意味を理解した。ただ、シュニーの頭上と背後に見えた犬耳と尻尾については理解できなかったが。
ちなみに現在、シュニーとティエラはコスプレアイテムセットでビーストの姿になっている。
国民に顔をよく知られているクオーレは、シュニーの幻影スキルで変装中だ。
「……ふむ、なるほど承知した。では我のやりやすいようにさせていただこう。それでよろしいか?」
「ああ、それで頼む」
跪いていた体勢から立ち上がり、シンの顔を見てうなずくシュバイド。シンが返事をすると、どこか嬉しそうに右手を差し出した。
「あらためて、よろしく」
「おう」
シンもその手を握り返す。手の大きさが違いすぎて、まるで大人と子供のようだった。
「さて、いつまでも立ち話というものなんだ。続きは茶でも飲みながらするとしよう」
凄まじい切り替えの早さで、シュバイドはシンたちを促す。
「そうだな……おーい、そこの2人。戻ってこい」
シンも、シュバイドが跪いたあたりからずっと固まっていたティエラとクオーレに声をかけて、ソファーに腰かける。
「え!? あ、うん……」
「了解です……」
2人はこの世界の常識から考えればありえない事態に、思考がフリーズしていたようだ。
シュニーやジラートも含めて、ここまで徹底して恭順の意を示したのはシュバイドが初めてだったので驚いたのだろう。ジラートもシュバイドも、英雄と言って差し支えない存在なのだから。
用意されていたティーポットでシュニーがお茶を入れ、一息つく一同。
「それにしても久しい。シュニーから聞いてはいたが、本当に戻ってきていたのだな。我も、できればもう少し早く馳せ参じたかったが」
「そっちもいろいろあるんだろ? シュニーにしろジラートにしろ、少なからず今の立場に応じた役割があったんだ。仕方ないさ」
この世界でシュバイドと初めて会話することになったシンだが、ゲームの頃の名残か、気がつけば久しぶりに再会した友人のように気さくに話をしていた。
ジラートのときもそうだったが、初めてのはずなのに初めてではないというのは、実に不思議な感覚だった。
「あの死に顔を見ればおおよそ察しはついたが……そうか、ジラートは満足して逝ったか。まったく、あやつらしい」
「最後まで『戦士』だったよ、あいつは。それにしても、この世界での戦いがあそこまでゲームと違うとは思わなかった。最後なんて至伝を重複発動してきたぞ」
「くかかっ、なんとそんなことをしおったか! これは負けてはおれんな」
わずかにしんみりした雰囲気になりかけるが、シンとてこの手の話は初めてではない。そのまま妙な空気になる前に、すかさず話題転換を図った。
シュバイドも自然に話に乗り、場の空気が明るくなる。
立派な最期をたたえるのは仲間として当然のこと。そこからは、シュニーも知らないジラートの武勇伝を聞くことになった。
「ところでシン。この後はどうするのだ?」
「ん? ああ、とりあえずファルニッドの資料館で調べられることはほとんど調べたからな。もう少ししたら、次はキルモントに行って、そのまま聖地調査をするつもりだ。シュバイドも少しは調べたんだろ?」
「うむ、シュニーから聞いたかもしれんが、聖地の中心部に何があるのかはわかっていない。手練れの冒険者や上級騎士にとっても、徘徊するモンスターはなかなか侮れんやつらが多くてな。ほとんど手が出せていない。キルモントは地理的に、聖地周辺で発生するモンスターの大規模侵攻を防がねばならんから、どうしても調査の手が足りん」
「やっぱり直接行って確かめたほうが早いか。シュバイドはこれからどうするんだ? キルモントを中心に活動してるって聞いたが」
「冒険者ギルドに国境はない。誰とどこへ行こうが冒険者の自由だ。もちろんランクに応じた制約はあるがな。我も一旦キルモントヘ戻り、そのあとシンたちに合流することになるだろう。せっかく主が戻ったのだ。じっとしてなどいられん」
モンスターの侵攻は大丈夫なのかと思ったが、シュバイドがいなくても問題ないくらいの態勢は整えているらしい。
もとより自分がいないと戦線が維持できないような状況であれば、シュバイドも呑気に冒険者などしていられないだろう。
「パーティを組むのも久しぶりだな」
「もう一度肩を並べられる日が来るとは、我も思わなかったがな」
「俺もだよ。ところで出発はいつにする? 残りの調べ物はそう長くかからないだろうし、ついでにギルドで依頼でも受けてみようかと思ってるんだが」
話ついでに、今後のことも確認するシン。
「すまぬが移動は別々になる。我はキルモントの代表として葬儀に参列してはいるが、名目上は使者である国王代理の護衛なのだ。国に戻るまではその仕事を優先しなければならん」
「そうなのか。個人では来れなかったのか?」
「移動の問題があってな。連絡を受けたのが葬儀の3日前。さすがにキルモントの首都からファルニッドまでそんな短時間では移動できん。なので、国の保有する飛竜を借りる条件として護衛を引き受けたのだ」
シュバイドは速度重視型でないとはいえ、数値にすればAGIは700を超える。全速力で移動すれば、馬など簡単に置き去りにするだろう。とはいえ、さすがに今回は時間が足りなかったので、ちょっとした裏技を使ったそうだ。
国が個人に力を貸すのはいろいろと問題があるが、シュバイドには建国時の恩がある。ゆえに使者の護衛という役を与え、その名目で飛竜を使えるようにしたようだ。
実績もあるSSランクの冒険者であるシュバイドは、護衛として最高の人選でもある。
現在の竜王は件の2代目がまだ現役のようだ。シュバイドとジラートの仲を知っているからこその計らいだろう。なかなか粋なことをするものだとシンは思った。
「なるほどな。じゃあ向こうに着いたら合流するってことで。【心話】を使えば連絡も取れるし」
「それで頼む」
「じゃあ俺らはこの辺で。ああそうだ、これを渡しとく」
話すべきこともなくなり、ギルドに向かおうと腰を上げたところで、シンは思い出したようにアイテムボックスから一枚のカードを取り出した。その表面にはハルバートが描かれている。
「む、まさかそれは……」
「ああ、お前の専用武器【凪月】だ。この街にいる間にメンテナンスは済ませておいた。一応確認してくれ」
シンの言葉を受けて、シュバイドはカードを実体化させる。次の瞬間、その手にはシュバイドの身の丈よりも長いハルバートが握られていた。
体格の良いシュバイドが使うため柄は通常の2倍の太さがあり、先端の槍の部分だけでも長さ60セメルはある。さらに刃の付け根の左右には、斧というよりは片刃剣のような縦長の斧頭がついていた。見方によってはトライデント(三叉槍)のように見えなくもない。
ジラートの【崩月】と同じくキメラダイト製なので、夜空を武器の形に押し固めたように輝いて見える。
刃の部分はエメラルドを流し込んだのかと思うほど、深く鮮やかな緑色で装飾されており、儀礼用としても通用しそうな貫禄があった。
「久方ぶりに手にするが、やはりこれが一番手に馴染む。見事な出来栄えだ。ただ、我の感覚に間違いがなければ、武器から感じる力が増しているような気がするのだが」
「お、わかるか? 実はジラートとの一件で魔力制御がだいぶましになってな。おかげで性能は5割増しだぜ?」
「5っ……あの状態からさらに性能が上がっているというのか。我が主ながら、末恐しいな」
手にした武器から伝わってくる、今までとは比べ物にならない力――シュバイドも思わず息が止まった。
シュバイドの記憶が確かなら、元の状態でも、神話級の中位くらいまでの武器が相手なら、十数回も打ち合えば砕くだけの性能はあったはずだ。
それが5割増し。もはや古代級だから、では説明がつかなくなっている気がしたシュバイドである。
ちなみにそれを聞いたティエラは「ああ、またか……」と遠い目をし、クオーレは「5……5!?」と驚きを露わにしていた。シュニーだけが相も変わらず平常運転だ。
言うまでもなくシュニーの【蒼月】、シンの【真月】以外の武器も、すでにバージョンアップ済みである。
「まあ、シュバイドたちは俺にとって特別だからな。この性能の武器を市場に流す気はないから安心してくれ」
「それを聞いて安心した。今のシンならば、希少級の武器に伝説級並みの性能を与えかねん」
シュバイドが安堵した表情でうなずく。
シンが本気になれば、希少級程度なら1日に何十本というレベルで製造できる。倉庫を開放すれば、それこそ冗談ではすまない数が出てくるだろう。
そんなものが大量に市場に出回れば混乱は必至。すぐにその混乱は各地へ飛び火するだろう。さすがにそれを黙って見過ごすわけにはいかない。
「今はまだ、目立って得をすることはないからな」
本当に必要とあらば躊躇はしないが、少なくとも今のシンには、武器を大量に売り出したところでデメリットしかない。金に困っているわけでも、どこかとコネを作りたいわけでもないのだ。
「では、これはありがたく使わせてもらう」
「ああ、じゃあまた後でな」
短く別れを告げて、シンたちは屋敷を出る。その足で次に向かうのは、エリデンにある冒険者ギルドだ。
†
冒険者ギルドに国境はなく、どこの冒険者ギルドで登録しても情報は共有され、他国で登録し直す必要はない。大抵の国にはギルドの支部があり、冒険者が仕事にありつけないということは少ないのだ。
国の中に、その国に帰属していない一大軍事勢力がある、というのは端から見れば不自然だろう。
しかし、いくら騎士で構成された常備軍が治安維持に目を光らせたとしても、領土内に散在するモンスターのすべてをどうにかできるわけはない。
また、騎士を動かすとなればどうしても面倒な手続きが発生する。ギルドが出来る以前はそのせいで初動が遅れ、民の被害が広がるということもあった。
今では、騎士は町の治安維持や他国との戦争、モンスターの大規模侵攻などに、冒険者は騎士では対応しきれない小規模のモンスター討伐や町の雑用、キャラバンの警備に、といった風に住み分けができている。
もちろん、国を脅かすような事態――亡霊平原での事件など――では、互いに協力して事に当たるという取り決めがなされている。
ちなみに戦争になった場合、戦争当事国のギルドが積極的に関与することはない。
冒険者が戦争に参加する場合はあくまで個人での行動となり、どのような結果になってもギルドからの補償はない。
冒険者ギルドの立ち位置は、すべてが決まり通りというわけでもないが、現状はあくまで中立である。その立場を確かなものにしているのが、高ランクの冒険者たちだ。
シュバイドをはじめ、Aランク以上の冒険者は上級騎士すら上回る戦闘力を持っていることがざらにある。下手に冒険者ギルドに手を出せば、最悪の場合、都市を制圧するための部隊が全滅させられることすらあるのだ。
また、国に飼い殺しにされるよりも自由に生きたいと、騎士から冒険者に鞍替えする変わり種もいる。そのためギルドの総戦力は、ときに大国を上回るとさえ言われる。
手を出したときの利益と不利益を天秤にかけたとき、ほとんどの場合は不利益が勝ってしまうのだ。いざというときは冒険者ギルドに逃げ込め、などと噂されるあたり、過去に何かあったというのがうかがえる。
「にしても、ベイルリヒトよりもでかいな」
「なんて言うか、膨張したみたい?」
エリデンの冒険者ギルドに着いたシンがまず気になったのは、建物の大きさだった。
ティエラの言う通り、2階建てなのは変わらないのだが、建物は横に長く、階ごとの天井もベイルリヒトのものよりも50セメルは高い。見た目が似ているせいもあって、膨張した、もしくは写真を拡大したとでもいうような感覚を覚えるのだ。
「ビーストは体格の大きい人が多いですから、自然と建物も大きくなったようです」
2人の疑問に答えたのはシュニーだ。
「我らビーストは部族ごとに体格が大きく異なりますので、入り口や天井などはもっとも大きな象人に合わせてあります」
シュニーの説明をクオーレが補足する。体格が大きいと必然的に得物も大きくなるので、それによるトラブル――主に接触事故が起きないようにとの配慮らしい。
シンたちには少々大きな扉を開け、建物の中に入る。内装もベイルリヒトのギルドと大差なく、受付と酒場、依頼書の貼ってある掲示板などの配置もほぼ同じだった。
シンたちが入ってきたのに気づいて目を向けてくる者が何人かいたが、その視線がシュニーとティエラのところで数秒ずつ停止したのはご愛嬌だ。
何となく、自分への視線が鋭くなったように感じたシンである。
「そういえば、まだ達成してない依頼があったっけ」
討伐系の依頼でもないかと掲示板を見ていたシンは、ふと思い出した。
最後の1枚がやけに高価なアイテムだったので、依頼自体は未達成にもかかわらず、結果だけ見れば報酬よりはるかに高額な代価を得た採取依頼があったのだ。
あと1枚見つければ依頼達成というのは都合がよいと、詳しいことを確認するためにシンは受付に向かった。
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