THE NEW GATE

風波しのぎ

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16巻

16-2

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「おそらく、数日中に使者が来るでしょう。シュニー様にもあらためて、話を聞くことになると思います」
「それは構いません。しかし、できることとできないことがありますよ?」
「承知しております」

 オルレアは丁寧ていねいに頭を下げる。
 シュニーがリーダーだと思っているオルレアの後ろで、ヘラードは何とも言えない顔をしていた。
 リナを連れて来たときや今の話し方などから、シンとシュニーの関係がただの協力関係ではないと気づいているのかもしれない。

「あとは、シンたちが見つけたという日記ですね」

 情報交換はあらかた終わり、残すはシンの持つ日記のみとなった。あらためて日記を取り出し、シンはティエラに差し出す。

「えっと……?」
「つらいことが書いてあるかもしれないけど、まずはティエラが読むべきだと思う」

 差し出された日記を受け取るのにわずかに躊躇したティエラだったが、シンの言葉を聞いて日記を受け取り表紙を開いた。
 しばらくの間、ページをめくる音だけが部屋に響く。
 邪魔にならないよう、誰も身じろぎひとつしない。

「っ……!」

 あるページを開いたとき、ティエラの表情が歪んだ。こらえきれなかった涙が一筋、頬を伝う。

「……ありがとう」

 日記を読み終わったティエラは、シンに言った。
 差し出された日記を受け取り、開く。
 あいにくとシンには読めないエルフ文字だったので、代わりにシュニーに読んでもらう。
 全員が同時に読むことはできないので、シュニーは声に出して読み始めた。
 日記は日付がばらばらで、思い立った日に書いているようだった。
 他にも日記があったのだろう。最初に書いてあったのは、ティエラに関することだった。
 巫女の力が段々と強くなっていることや父として誇らしいという気持ち、守っていこうという決意。そんな内容が短くもはっきりと綴られている。
 そのあとには、妻の作った料理がおいしかったこと。兵士たちが腕を上げてきたこと。ティエラの婚約に納得できるようなできないような複雑な思いを抱いたこと。
 そんな今も、世界のどこかで誰かが同じようなことを考えているだろう話が続く。
 父としても守護者としても、良い人物だったのだろう。読む者にそう思わせる内容だった。
 だが、そんな穏やかな内容は唐突に途切れる。
 次に日記が書かれたのは、1月以上あとだった。
 ――私たちが、いったい何をしたというのだろうか
 シュニーが読み上げた内容に、その空白期間に何があったのかを、部屋にいた誰もが察した。
 ティエラが【呪いの称号カースドギフト】を得たのだ。
 そこからはひどいものだった。日記の間隔がかなり空くようになり、綺麗だった文体も殴り書きのように崩れている。
 このときすでに、日記はその役目を半ば放棄していた。
 巫女である娘が呪いを受けることへの疑問。
 呪いを受けた者へ向けられる侮蔑ぶべつ罵倒ばとういわわれなき扱いを娘が受けることへの怖れと怒り。
 里の中で娘を追放しようという声が大きくなっていくことへのあせり。
 自らの立場と役目のため、娘を守ることができないなげきと悲しみ。
 それは、クルシオの声に出せなかった叫びそのものだった。
 所々文字がぼやけたり、紙がしわになっていたりするのもまた、クルシオの感情を伝えてくる。
 そして、妻が死んだという一文で日記は終わった。
 それ以降は、何も書かれていない。

「…………」

 すべてを聞いたシンたちは、しばらく無言だった。日記は薄く、文章は少ない。
 だが、重い。
 とくに後半は、文字そのものに呪いが掛かっているかのようだった。

「お母さんは、私と別れた後、すぐに死んだわけじゃなかった。私の追放に疑問を持っていた人たちが保護してくれていたの。でも、もともと精神的に弱っていたところに傷を受けたこともあって、長くは生きられなかったらしいわ」

 話は元ルーセントの者から聞いていたようだ。話す気はなかったんだろうな、とシンは思った。

「文章の変化を見れば、ティエラ殿が【呪いの称号カースドギフト】を得たのが転機と見るべきだ。しかし、タイミングが良すぎる。おそらく、それより前から機会を窺っていたのだろう」

 冷静にシュバイドが分析する。
 シンも同意見だ。

「意図的なものだと思いますか?」
「そうでないと思いたいけど、リフォルジーラあれのことを考えると、否定できないんだよな。可能性があるとしたらまず呪術師、あとは付与術師に死霊術師ってところか」

 呪術師は、呪いやステータス低下を始めとした、デバフを主体とするジョブだ。付与術師、死霊術師も主体ではないが、それに近いことが可能なジョブである。
 問題は、シンがそれらのジョブについて詳しくないことだろう。
 呪術や死霊術は、まとになったときに気をつけるものは知っていても、ジョブそのものは深く理解していない。
 似た系統として、付与術師なら錬金術師のヘカテーが、死霊術師なら召喚士のカシミアあたりが知っていたかもしれないが、今は連絡の付けようがない。

「あとは、これだな」

 日記からわかることは少なかった。いくらか推測を立てたところで、シンは懐から金色の水晶を取り出す。

「これは、水晶、なのでしょうか」
「そう見えますが、おそらく違うでしょう。これは先ほど言った、クルシオさんの部屋で回収したものです。私も高位の素材アイテムには詳しいのですが、見たことも聞いたこともない」

 オルレアの疑問に、シンが答える。
 この水晶がリフォルジーラを呼び出したキーアイテムだと、シンは予想していた。

「妙なの。瘴魔デーモンが隠していたのに、瘴気を感じないのよ」

 水晶を見ながら、ティエラが言う。日記もそうだったが、水晶からも瘴気がまったく感じられない。

「あの部屋もトラップこそ仕掛けられていましたが、瘴気はほとんどありませんでした」
「当主は普段、あの部屋で仕事をしていたんですよね?」
「ええ、そうです。ただ、屋敷は広く、当主には入れない部屋はありません。部屋以外にも隠そうと思えば場所には困らないでしょう」

 シンの言葉を引き継いでシュニーが問うと、オルレアは表情を曇らせながら答えた。
 行動範囲から怪しい場所を推測しようにも、どこにでも行ける当主が相手では難しい。
 オルレアは屋敷内で働く者たちの話を聞いて、よく目撃された場所などを調べるつもりだと続けた。

「水晶の解析は、こちらに任せてもらえませんか? 私の知る限り、シン以上に素材に詳しい者はいないでしょう。必要とあらば、大陸を回って技術者を訪ねることもできます」
「……シュニー殿がそこまで言うのならば、王も否とは言わないでしょう。何かわかったときは、一報をお願いいたします」

 わずかに逡巡しゅんじゅんしてから、オルレアはうなずいた。
 シュニーはその実力もあって、大陸中から依頼が来る。相手は王族や都市の領主クラスも多く、シュニーが言えば必要な支援も引き出せるだろう。
 そのあたりも考えて、この場でOKを出したのだろうとシンは思った。提案者がシンならば、こうも簡単にはうなずかなかっただろうことは間違いない。

「では、我々はいったん屋敷に戻ります。あまり長居して国軍の関係者と鉢合わせしてもなんですから」

 連絡の方法を確認し、シュニーが切り出す。
 マップでそれらしき動きがないかチェックはしているが、それも万全ではない。シンたちでも、今後どうするか話し合う時間がほしかった。

「わかりました。何かありましたら、あらためて連絡いたします」

 シュニーに対して終始頭が下がりっぱなしだったオルレアに見送られ、シンたちはルーデリアの屋敷を後にした。
 オルレア自身はティエラと話をしたそうだったが、あの場でそれを言うほど我を忘れてはいなかったらしい。

「いつ出れるかねぇ」

 王との謁見えっけんは避けられないだろう。
 リフォルジーラは倒したが、混乱はまだ収まっていない。
 管理者の一族であるルーデリアの戦士団の半数が、一時とはいえ敵に回った事実もある。瘴魔デーモンがいなくなったからといって、そのまま運用はできないだろう。
 オルレアが代表を務めているルーデリアだけでなく、ルーラックもお咎めなしとはいかない可能性は高い。
 シュニーがいる手前、何か必要以上に要求が来ることはないだろうが、だからといって、「はいさようなら」とはいかないだろうとも思っていた。

「向こうの動き次第ですね」
「討伐クエストみたいに、モンスター倒したらそこで終了だったらいいんだけどなぁ」

 言ったところで詮無いこと。それはわかっているが、つい口にしてしまうシンだった。


         †


「王が来てるんですか? 呼び出すんじゃなくて直接こっちに?」

 明けて翌日。朝食を終えたところに、予想外の連絡が入った。
 シンたちが元ルーセントの屋敷にいることはオルレアたちに聞けばすぐわかる。
 オルレアも使者が来るだろうと言っていたし、接触なしとはいかないだろうということもわかっていた。
 だが、王が直接屋敷を訪ねてくるのはシンたちも予想していなかった。

「屋敷の外でお待ちです。お通ししてもよろしいでしょうか?」

 連絡しにきたエルフも動揺している。
 管理者の一族とはいえ、国の王が相手となるとさすがに冷静ではいられないようだ。

「謁見とかに使われる部屋ってあるのか?」
「一応、特別な相手用の部屋はあるけど……お連れの人はどのくらいいたの?」
「護衛の方を含めると、20人はいたかと」
「多いわね」

 密談用の部屋というわけではないが、そこまで大人数が入れるほどの広さはないと言う。
 部屋がないので人数を制限します、と言うわけにもいかない。なので、そこそこ広さのある大広間で会うことになった。
 屋敷の家人に返事を頼み、シンたちは先に大広間で待機する。しばらくして、家人の案内でエルフの一団が入ってきた。
 先頭はローブに近い形状の煌びやかな衣装に身を包んだエルフだ。右手には金色の錫杖しゃくじょうを持ち、頭部には銀のティアラを載せている。どれも神話ミソロジー級の装備だ。
 ――――【エルディン・ルー レベル255 教皇】

(レベルはカンスト。そのうえ職業は神官系の最上位職か。選定者っぽいな)

 レベル、装備、職業。どれをとっても、ただのエルフではない。
 シンがエルディンに感じる存在感は、今まで見てきた王と似たものがある。
 やはりというべきか、人を率いる者としてのカリスマがあった。

「お初にお目にかかる。ラナパシアの王を務めているエルディン・ルーと……」

 そう言いかけてエルディンの言葉が止まる。
 その目は、代表として先頭に立っていたシュニーではなく、シンを見ていた。

「エルディン様? どうかなさいましたか?」

 後ろに控えていた老エルフが、エルディンに話しかける。
 しかし、エルディンは何かを確かめるように、視線をシンに向けたままだ。
 そしてさらに数秒後、エルディンは後ろに控えていた者たちに向き直った。

「パダンを残し、皆は外で待て」
『エルディン様!?』

 突然の退室を促す言葉に、護衛や文官らしきエルフたちが動揺した声を出した。その様子を見て、エルディンの言葉や行動が彼らの知るものではないとわかる。

「私の言葉が聞こえなかったのか」
「しかし……」

 渋ったのは服装から文官だろうと思われるエルフだ。相手が相手だけに護衛は不要と考えるのはシンにも理解できたが、それ以外の面々まで外に出そうというエルディンの意図はわからなかった。

「ぐずぐずするでない。恩人を待たせているのだぞ」

 老エルフがパダンなのだろう。最初こそ困惑していたようだが、すでに立ち直ったようだ。
 さすがにこれ以上渋るのは様々な意味でまずいと考えたようで、エルディンとパダン以外のエルフたちは部屋の外へと出て行った。
 シンたちは口を出さない。

「パダン、防音を」
「はっ」

 エルディンの指示に従い、パダンが部屋に防音の魔術をかける。
 そして、シンたちに向き直ったエルディンは、おもむろに膝をついた。一国の王である、エルディンがだ。その後ろでは、パダンもまた膝をついている。

「それはいったい何のつもりですか?」
「我々の不手際により、貴きお方の手を煩わせたこと、お詫び申し上げます」

 シュニーの問いに、エルディンは顔を伏せたまま返す。
 その様子を見ていたシンは、ふとあることに気づいた。
 エルディンとパダンの体の向きが、シュニーからわずかにずれている。その先にいるのは、シンだった。

「王たる者が、軽々しく膝をつくものではありませんよ」
「『栄華の落日』を経てなお人々に称えられ、神とすら呼ばれる方を前にしては、一国の王などさしたる存在ではありますまい」
「神?」

 エルディンの言葉に、シュニーの気配が変わった。シュニーは各国から依頼が来るほどの人物だが、神などという呼び方はされない。
 そして、そもそも彼らは途中から、シュニーのほうを見ていなかった。

「再びご尊顔を拝する機会に恵まれるとは、光栄の至りにございます。シン様」
「ええと、どこかで会いましたかね……?」

 名を呼ばれたシンは、膝をついたまま見上げてくるエルディンの顔を見ながら考える。
 この世界に来てから、ずいぶんといろいろな場所を通ってきた。しかし、いくら記憶を探っても、エルディンに会った覚えがない。
 そもそも、王が国外に出ることなどそうあることではないだろう。

「『栄華の落日』より前のことゆえ、覚えておいでではないかもしれませんね」
「あー……もしかしてですけど、俺の種族ばれてます?」
「ハイヒューマンの中でも、『六天ろくてん』の皆さまは名と姿が広く知られていましたので。実際に見たことがあるのは、この国では私とパダンだけですが」

 シンがパダンに目を向ければ、無言のうなずきが返ってくる。立ち直りが早かったのは、こちらもシンのことに気づいたからのようだ。

「なるほど、そういうことですか。とりあえず立って下さい。シュニーが前に出ているのを見ればわかるとは思いますが、ハイヒューマンだと喧伝して回っているわけではないので。それに、以前の俺たちを知っているなら、そういうのにこだわらないのはわかるでしょう?」

 シンたちは【THE NEWニュー GATEゲート】において、トッププレイヤー集団のひとつであったが、他のプレイヤーやNPCに尊大な態度は取っていない。
 仲間内でも、上下関係などなかったのだ。話し相手をひざまずかせたままというのは気分がよくない。

「……そう仰られるのであれば」

 シュニーたちの顔色も窺いつつ、エルディンとパダンは立ち上がった。
 本人がいいと言っても、シュニーたちがうなずくとは限らないからだろう。口に出さずとも、威圧感が漏れただけで相当な圧力になる。
 いくらエルディンがこの世界では強く、さらに貴重な装備を身につけていても、シュニーたちと比べてはその他大勢と大差がない。
 ただ、シュニーたちは威圧感など出すことなく静かにたたずんでいるのでいらぬ心配だが。

「一応、今回のことは、シュニーが主導だったということにしてもらえると助かります」
「承知しました。我らの胸の内に秘めておくこととします」

 ハイヒューマンが戻ってきた。そんな情報が出回れば、情報の真偽を確かめるために各国が必死になるだろう。
 そうなれば、シュバイドが国を出たことやシュニーとともに行動していた人物の情報なども知る者が多くなる。
 そして、それらの情報から、シンというハイヒューマンと同じ名を持つ冒険者に気づく者も出るはずだ。
 一部の人間にはシンの能力の高さがばれている。そこから「まさか……」と考える者もいるだろう。
 すでにその考えに至っている者もいる可能性は否定できないが、それでもシンに自分からハイヒューマンだと明かす気はない。
 黙っていてもらえるならば、それに越したことはなかった。

「それで、わざわざそれを確認したということは、何か俺たちに用があると考えていいんですか?」

 シンのことがハイヒューマンだとわかっても、王としてシュニーに接すればそれを感づかれることはない。シンたちは他の王たちと同じように接し、そして去っただろう。
 それをしなかった以上、何かあるのだ。

「はい。ですが、頼みごとがあるというわけではありません。シン様にお返しするものがあるのです」
「返すもの?」

 エルディンの言う返すものに、シンは思いつくものがなかった。
 こちらに来てから使い捨てにしてしまった武器は確かにある。だが、それをエルディンから返される理由が思いつかない。

「シン様は、『栄華の落日』より前に現れたリフォルジーラを覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、覚えています」

 盾ごと吹き飛ばされたのは、忘れようにも忘れられない体験だ。

「私もその戦いに参加していました。とはいっても、プレイヤーの方々がいなければ事態を収拾することはできなかったでしょう」

 リフォルジーラとの戦いでは、プレイヤー以外にも多くのNPCが参戦していた。その中に、エルディンもいたようだ。

「お返しするものというのは、その時にクック様が使っていた武器の刀身部分なのです。まさかシン様がいらっしゃるとは思いませんでしたので、本日は持ってきておりませんが」
「クックの……? そういえば、あのとき武器が壊れたから修理したな」

 ゲーム時のリフォルジーラとの戦いは完全に消耗戦だった。
 クックは世界樹を復活させる部隊だったが、それは後方支援部隊を意味しているわけではない。
 リフォルジーラからすれば、活動するためにエネルギーを止めようとする邪魔者だ。当然、狙われる。
 それをさせないためにシンが吹き飛ばされることになったわけだが、無傷とはいかなかった。クックの武器が壊れたのも、シンたちのフォローが間に合わなかったときに少数精鋭で立ち向かったからだ。
 結果、ものの見事に折れた。渡されたカードを具現化した際に、特製の柳刃包丁の柄しか残っていなかったのをシンは覚えている。
 武器の分類としては刀剣なのだが、包丁は料理スキルをアシストする調理刀。戦闘のための武器としては、ワンランク下がるのだ。リフォルジーラなどという怪物を相手にすれば、折れても仕方がないというものである。

「早くお返しするべきだったのでしょうが、我らにはその手立てがなく……」
「いえ、刀身のことは仕方がないと思っていたので。保管していてくれたことに感謝します」

 そう言って、シンは頭を下げた。ゲームでは武器が損傷するのはよくあること、折れた刀身のことなど考えもしない。
 だがエルディンたちは、それを今までずっと保管していてくれたのだ。
 状況が違うと言えばそれまでだが、シンも鍛冶師のはしくれ、礼を言わぬわけにはいかない。

「礼を言われるほどのことは何も。我々も、調査をしなかったわけではありませんので」
「それでもですよ」

 折れているとはいえ、その刀身は間違いなく古代エンシェント級。情報を得るために調べるのはおかしいことではないと、シンは笑って返した。

「そう言っていただけると助かります」

 刀身は明日あらためて持ってくると言い、話は次に移った。

「ティエラ殿のことですが」

 今回のことで、ティエラの身の潔白と強い浄化の力を疑う者はいなくなった。
 現場にいなかった者の中には、疑う者もいるかもしれない。
 しかし、王の居住区からも確認できたリフォルジーラの巨体に、完全に浄化された世界樹。そして、他の巫女たちの証言。
 何より、力の強いエルフならば、ティエラの周りにいる精霊の数と質に何も感じずにはいられないだろうと、エルディンは言った。
 今回のことで、ティエラの力が標準的な巫女の領域を超えているのは明らかになっている。
 ティエラはもともと、能力的にも一般人のレベルを超えて成長している。
 この世界では良いことであり、悪いことでもあった。

「今のラナパシアにとって、ティエラ殿の存在は火種にもなりえます。強い光は、人の目をひきつける。そして、その目を眩ませてもしまう。光を求めていた者たちにとって、それは抗えぬものとして映るでしょう」

 ルーセントの一族のことを言っているのは、その場にいた誰もが理解していた。
 ティエラが追放され、最後の当主が死んでなお、ルーデリアにもルーラックにも心まで帰属しなかった者たち、名が変わってもルーセントであり続ける者たちがいる。
 そんな彼ら、彼女らにとって、ティエラはまたとない旗印となるのだ。


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