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8.5巻
8.5-2
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「真様、よろしいですか?」
「どうぞ」
僅かに自己嫌悪を覚えたその時、ドア越しに声が掛けられた。
朝起きて、しばらく汗を流して、飯を済ませて一息ついたらノックの音。
この頃の日常における定番だ。
お仕事開始ともいう。
「おはようございます、真様。……もしかして今日はご気分が優れませんか?」
ドアを開けると、既に身なりをきちんと整えて働く気まんまんのハイランドオーク、エマの姿。
早速、僕の顔に出ていたらしい気疲れを読まれて心配されてしまった。
今日の彼女はパンツスタイルで動きやすそうな格好をしている。そういえば最近はあんまりヒラヒラした服は見ないな。
「いや大丈夫だよ、エマ。夕べ、こうやって僕がまとまった時間亜空にいると凄く助かるって言ってくれたでしょ? だからさ、今日も頑張ろうと思ってただけだよ」
「ありがとうございます。実は今日のご予定は少し抑えめにしてあるんです。毎日毎日、雑事の決裁や皆の日常の報告ばかりお聞かせするのは心苦しいですから」
そう言うと、エマは申し訳なさそうに微かな笑みを浮かべた。
「そんな事ないのに。皆の話を聞くのは楽しいよ。もうすぐゴルゴンさん達もこっちに来れそうだって話だよね? それも昨日教えてもらって嬉しかった」
「その手の話は私も後回しに出来ませんので、真様にはなるべく早くお時間を作って頂くほかありませんが。それにしても、最近は少し、皆ただ真様とお会いしてお話をする為だけに用件を作っている節がありますので、そういう事は出来るだけ遠慮してもらうようお願いしようと巴様達とも相談致しまして」
「なるほど。まあ学園の休みが終われば僕もそれなりに忙しくなるだろうし、商会もほったらかしには出来ないからね。今のうちは出来るだけ皆と過ごそうと思ってる。なんだかんだで皆には色々お願いもしちゃってるから、そのお返しも兼ねてね」
実際は、僕より巴とか澪の方がドワーフやらオークやらを手足のように使ってるんだけど。
かと言って、僕は知りませんでした、なんてわけにはいかない。
巴にしろ澪にしろ、あれで結構僕の為って理由で動いてる事も少なくないし……何より家族みたいな二人だ。識は巴達のように手当たり次第というわけではなく、僕がお願いした事を適性の高い何人かと取り組んでくれる事が多いし。
今識には、この前移住の関係で面接したゴルゴンって種族の不便を解消する為にアイテムを製作してもらっている。
夕べの報告だと、とりあえずの形はもう出来ていて、今はその補助アイテムなしでも彼女達の不便――具体的には見たモノを問答無用で石化する能力――を制御できるようになる訓練について詰めている段階らしい。
お願いした事の一段上の成果を出すって、凄く優秀だ。
僕も見習わないとな。
「そう言って頂けると本当に……いえすみません。言葉が見つからなくて」
僕の言葉に、なんだかエマは感極まった様子で言葉に詰まってしまった。
「いや、そこまで感動してもらうほどの事は言ってないから」
「真様のような主を得て、私達は本当に幸せです……ううっ」
涙ぐむのはやめて、エマ。
主だの、王だの、本当に大袈裟なんだよな。そんな自覚は今までまったくないんだけど。
それでも、気付けば皆から若様って呼ばれる事にも慣れてる自分がいるわけで、なんだかなあ。
「あー……エマ? 今日の予定、そろそろ始めようか」
「あ、すみません! 本日ですが、まずは翼人の皆さんと模擬戦をしていただきます。各種族と親善を深める意味も兼ね、定期的に行われているものですが、翼人の皆さんが真様との手合わせするのは今回が初めて。族長のカクンさんも目の色が違っていました。彼らは既に何度か他の種族と対戦しておりますが、負けはなし。非常に強力な種族です」
翼人とゴルゴン。
どちらも夏休みを利用した移住面談に合格した種族だ。
ゴルゴンは種族の特性として目にちょっと課題があってまだ移住していないけど、翼人の方は早々に移住を終えていた。
翼人は、名前の通り背に翼を持った種族で、住居も高所に構える文化があるので、オークやドワーフとは若干集落が離れている。
現在、翼人達の為に山の麓の岸壁を住まいとして改修中だ。
本来はもっと高い場所を住まいとしているようだから、ここでいいか確認したけど、あまり僕から離れるのも失礼だと言うので、その場所に決まった。
荒野に住んでいた頃は様々な脅威から身を守る意味で高所に暮らしていたそうなので、別に高くないと不都合だという事でもないみたいだ。
土地は余ってるから、もし何かあれば引っ越しすればいいんだしね。
更に言えば、亜空では岸壁なんて誰も使ってないから、住み放題だ。
「翼人か。皆から聞く限りかなり強いみたいだね」
「やはり空を飛べるのが大きいですね。安全圏からの一方的な波状攻撃は、何らかの対策がないと何もさせてもらえません。幸い、攻撃の威力はそこまで高くないので、あと何度か手合わせをすれば我々とて負けはしませんが!」
珍しくエマが鼻息荒く熱弁するから、つい面白くなってしまった。
「あははは、ハイランドオークも一回負けたんだ?」
「……不覚にも初戦では完全に向こうの勝ちでした。我らハイランドオークにとって魔術師、メイジの役割は基本的に補助なのですが……ああいった相手を想定するとなると、今後は遠距離攻撃の担い手としても鍛えないといけません。もちろん、新たな戦術の構築は既に進んでおります」
「そ、そう」
かなり悔しそうな口調でエマがハイランドオークの今後の在り方まで話す。
わ、笑うんじゃなかったな。
「なら僕も気を引き締めないとね。参考になったよ、エマ」
「あ、それは……」
急に口ごもるエマ。
さっきまでは翼人を絶賛していたのに、どうしたんだろ?
「なに?」
「これは私のみならず、他の種族の方々とも議論した結果なのですが……」
「うん」
「多分、翼人の皆さんは真様と致命的に相性が悪いかと思われます」
「相性が悪い?」
「いえ! 我々の方が真様と相性が良いとか、そういう話ではありません。むしろ真様はそういった面では手が付けられないと申しますか、相性で語る存在ではないと言いましょうか」
「気にしたわけじゃないからフォローはいいよ」
「は、はい。つまり、翼人の皆さんは強いというのが我々の結論なのですが、真様から見るとあまり強く感じないと思われます。能力的な相性で翼人の戦力が過小評価されてしまうのであれば、それは翼人の方々に少し酷なのではと……」
「つまり実際は僕が感じるよりも強いから評価を上げてやって欲しいって事?」
これはまた、エマにしては珍しい。
彼女は仕事でも戦闘訓練でも結構シビアな見方をするほうなのに。
「そこまでは申しません。ただ、これから私もその光景を見るのでしょうが、多分もの凄くショックを受けるだろうなと。私達からすると苦戦は間違いない相手なのに、きっと真様相手だともう、ええ……」
本当に珍しく歯切れが悪いな。
「何か、自分がとんでもなく悪い事をするかのように思えてきましたよ、エマさん」
「巴様曰く『カトンボ同然じゃ』だそうで」
「……カトンボって、あいつはまた」
「言葉の意味はよく分かりませんでしたが、何となく私も、ああそんな感じになるんだろうなと思ってしまいました」
意味が分からないのに語感で納得させるなんて、凄いぞカトンボ。
何となく納得いかないものの、エマからここまで言われてしまった以上、出来るだけ翼人の力を客観的に把握するように努力しよう。
ただ……たかだか空を飛ぶってだけなら、そんなに凄いとは思えないのも確かだ。戦闘機ならともかく、生身で飛んでるんだし、攻撃当てれば落ちるよね、きっと。
うーん、考えたところで始まらないか。
まずはお手並み拝見といこう。
◇◆◇◆◇
カトンボでした。
エマから客観的にとか、相性はある程度考慮してとか言われた気がするけど。
断言します。
翼人はここにいる種族の中で一番弱い。森鬼にすらまるで及ばない。
確かに結構な高度まで空を飛べるようだけど、彼らのアドバンテージはそれだけ。
想像通り、上空から魔術や投擲で攻撃を仕掛けてくるのだが、ある程度攻撃の威力を出そうと思ったら結局翼人自身もそれなりに高度を下げないといけない。
射程の関係か命中精度の問題か分からないけど、これじゃあ自分からアドバンテージを捨てているようなものだ。
確かに、高い所にいるうちはエマの言うように「負けはしない」けど、全体的に火力も控えめで、決定的な攻撃手段がないから押し切れない。
オークやリザードが彼らの戦術に慣れたら、逃げ回るだけの引き分け狙いしか出来なくなるんじゃないか?
利点は高さと……あとは全員の間で結構連携がスムーズだったくらいかな。
雲の上からでも僕に向けてそこそこ正確な攻撃も放ってきた。まあ、威力の程はお察しだけど。
あれも何らかの連携の成果だろうな。
……駄目だ。褒めるべきところがそのくらいしかない。何をどう贔屓目に見ても、彼らは……。
「ああ……やっぱりこうなるのね」
エマが額に手を当てて深い溜息をついた。
この光景は、エマにとって予想通りの結果だったという事だろう。
「エマ……悪いんだけど、翼人、強くないよね?」
森鬼とかドワーフとか、それなりに力をつけた子は亜空の外にも出してるけど……翼人が出られるようになるのは、ずっと先の事になりそうだな。
僕の側にいるってだけで、外でどんな不幸にエンカウントするか分からないわけだし、実力的に安心出来ないと外には出せない。
「いえ、強いです。強いんです。真様以外には、それはもう、本当に」
「彼らを庇いたい気持ちは分かるけどさ。あれは強いんじゃなくて、負けないだけだよ。まあ、しばらくは中で特訓だね」
「そう……ですよね。確かに結果は、それを示します。けれど、いえ、はあ……」
先ほどの翼人との模擬戦を振り返ってみよう。
僕が立っているのは、周りに視界を遮るもののない葦野原。
一方、翼人達はそこから少し離れた森の中に集まった為、僕と翼人とはお互い見えない位置からの開戦になった。
試合開始直後、翼人は地面に対して垂直に上昇を開始、彼らにとってのメインフィールドであろう空を目指した。
垂直離陸、しかもかなりの速度だ。
この動きは鳥の羽ではおよそ出来ないだろう。
けどまあ空と言っても広いわけで、雲の浮かぶ高度まで上昇するには結構時間がかかる。
つまり、その間翼人の姿は丸見えだ。
だから一見無防備に直角に飛び上がっていく彼らを見て、挨拶代わりにブリッドで狙い撃ちしてみた。当然、彼らは何か遠距離攻撃に対策をした上で飛んでるものだと思ったから、こっちもそれを確かめようと、全員じゃなくてあえて十人だけに絞って狙ったんだけど……。
結果は第一陣の数十人のうち、狙いを付けた十人全部が……墜ちた。
はい? って感じだったね。
じゃあ全部狙ったらどうなるんだこいつら。
撃ち落とされた第一陣を見て、慌てて飛び上がった第二陣二十数名の姿が見えた。
今度は全員を狙ってみたら、これまた全部ヒット。猟師に撃ち落とされた山鳥よろしく、ひゅるるる……と落下。
界で反応を探ると半数以上がそのまま戦闘不能状態になってた。
遠距離攻撃への対策なしで飛んで、その上防御力が紙って……。
このまま上昇するところを狙い撃ちにしてれば、最初に見逃してあげた第一陣以外、全部この繰り返しで終わってしまう。
それでは彼らの実力が分からないままだ。
身も蓋もない言い方をすれば、今のこの惨状が彼らの実力だという事になるし、本音では僕もそう思う。
でも、エマからの口添えもあるから、一応、力を出し切らせてあげないと可哀想だろう。
僕から距離を置いて観戦していたエマも、この戦況に早くも首を横に振っていて、翼人への紛れもない同情が仕草から分かる。
第三陣以降には手を出さず、無事に行かせてあげて、彼らの動きを見る事にした。
空に上った翼人達は何名かに分かれて編隊を組み、雲を利用し、時には自らの魔術で作り出した雲に身を隠しながら僕に迫ってくる。
とはいっても、確かに雲は視界を遮るけど、壁とは違う。矢も術も通過してしまうわけで、僕のブリッドは防げない。
つまり、目に頼らず、界で位置を把握すれば当て放題。
翼人達は狙い撃ちにされる状況がたまらなかったのか、次々に高度を落としつつ、手にした武器や用意した術を僕に放ってくる。
こういう場面での彼らの連携「だけ」は本当に素晴らしい。編隊の組み方も見事で戦闘機の実戦を見ているようだった。
しかしながら!
ブリッドだけで全部撃ち落とせる。
たかだか数十の攻撃、しかも空から来る以上丸見えだ。回避も防御も必要ない。
僕の攻撃の方が威力は明らかに上回っているから、向こうの攻撃を相殺するどころか、漏れなくブリッドが貫通してしまう。
そのせいで、当てるつもりもなかったのに、数人に流れ弾的なブリッドが命中してしまった。
落下していく翼人達が地面に激突して大怪我しないように、クッションになる術を用意してやる。
そうやって撃墜した翼人のフォローをしていると、前の攻撃から少しだけ時間を空けて僕の背後に回った一団がこれまた攻撃を仕掛けてきた。
界で把握する限り、威力はさっきと大して変わらないだろう。また撃墜してもよかったけど、一度は威力を確かめてみようと、あえて体で受ける。まあ、障壁は展開してだけど。
案の定、彼らの攻撃では障壁は揺らぎもしない。武器も整ってなかった頃のハイランドオークの攻撃がこんなもんだったかなあという程度。
貧弱である。
そして無防備だ。
僕を中心にして空を旋回する翼人の部隊からは、若干の焦燥が感じられる。
僕には界を通じて全員の位置が把握できている。
位置が把握できているのなら……当てるのは簡単だ。
右手を空に向けて突き出す。
旋回している四十ほどの翼人全てをロックオン。
手のひらに魔力が集まって球体を形成し、その周囲には紋様が描かれた帯が回りはじめる。
流石に落下のフォローまで僕がまたやると模擬戦ですらなくなりそうだったから、そこはエマに頼んでおく。
そういえば、僕は基本的に攻撃についてはブリッドとその変形しか使ってないけど、エマに言わせると僕のは既に初級の魔術であるブリッドとは別物になっているそうだ。
変形を加えた僕のブリッドは中級や上級の攻撃魔術に相当すると。
それぞれ名前があって、澪の時に使った連続で撃ち続けるブリッドは『磔る怒濤の轟撃』だっけ?
それから、今やろうとしてるように、複数の相手をロックオンして同時に攻撃するのは『閃烈の魔宴盛りなり』だったか。
ただ、実際僕が使ってるのは詠唱を変形させた初級ブリッドなので、完全に同一の魔術とも言い切れないらしい。
だったらもう、ガトリング的ブリッドとホーミング的ブリッドでいいよ。
詠唱の段階で期待する効果を口にしちゃってるわけで、特に個別の術として使うという考えはなかった。
もしかしたら、より正確に術を組んで名前を意識したら、多少は威力が上がるかもしれないけど……今の汎用性を消したくない。
状況の変化に応じて柔軟に対応できる方がメリットがあると思うから。
というわけで、四十の標的への追尾を帯の紋様にこめて……ブリッドを解放。
閃光が炸裂し、四十の光の帯になって僕の術が空を舞う翼人達に襲いかかる。
「うわ、誰も防ぎきれないのか」
殆どの翼人は障壁の展開すら間に合わずにブリッドの直撃を受ける。防御が間に合った一部の者も、展開した障壁を突き破られ、あえなく射抜かれた。
確か、移住の申告にあった人数は百弱。なら、今撃ち落としたので殆ど終了じゃないか?
負傷したのとか、支援に徹する補助役とかもいるだろうし、見た感じ部隊単位の戦闘が基本みたいだから、数人残ったところで戦闘の継続は難しいだろう。
まだ族長のカクンさんと補佐のショナさんは出てきてないけど……ここらで幕引きが妥当かな。
そう思っていたら、今までとは毛色の違う反応が僕の界の網に引っかかった。
でかい、しかもこれまでの翼人達よりかなり強い気配だ。
見ると、彼らが本陣を置いた森の方から、木々を大きく振るわせて巨大な鳥が飛び出してきた。
小さな戦闘機くらいあるな。
それに、上に誰かが乗ってる?
確かめると、そこには族長のカクンさんの姿が。
界で鳥の正体を探ると、そっちはショナさんだった。
翼人の特殊能力で巨鳥への変身能力ってのがあったから、それを使っているのかもしれない。
巨鳥は濃い緑色の障壁を全身に纏いながら、ぐんぐん高度を上げていく。
雲を突き抜けようとするカクンさん達に向けて、最初に使ったのと同じ強さのブリッドを放つが、これは緑の障壁に弾かれてしまった。
そうそう、そんな対策を見たかったんだよ。
次は何をする?
竜巻でも起こすのか? それとも見えない風の刃を荒れ狂わせるのか? もしかしたら、雲を作り出す延長で雷撃でも使ってみせてくれるのか?
この世界ではまだ雷属性の術なんて使われた事がない。僕もビリッと来る程度の静電気みたいなのしか作れないし、もしそれが出来るなら翼人の株は急上昇だ。
でも、そんな僕の期待はあっさり裏切られた。
上空で彼らの力が高まるのを感じる。
だが、彼らが使った術、それは強化だった。
身に纏う風の魔力と身体の強化。
つまり彼らのとった切り札は……特攻。
それも単純な体当たりだ。
「空中って安全圏を得て、攻め手が単調になったって事かねえ。残念だ」
界で捉えていた巨鳥と人の反応が、一瞬消えた。
急降下。
真下を向いての、直滑降と言っても過言じゃないほど無謀な軌道。
人がやったら気絶しそうな勢いだ。
それでも彼らはぐんぐん速度を上げて、僕が回避すれば確実に地面に激突して自滅するんじゃないかってスピードで迫ってくる。
まあ、避けないけどね。
弓を使って撃ち落とそうかとも思ったけど、彼らには弓を使うまでもない。
まっすぐ彼らを見据え、腰を落として身構える。
まずショナさんが変身した巨鳥のクチバシを左手で受け止め、一瞬遅れて体ごと突っ込んでくるカクンさんの槍を右腕でかち上げた。
「止めた!? だが!」
カクンさんの瞳が、驚愕に見開かれる。
「いくら速くても一直線じゃ防ぐのは難しくないよ」
槍を逸らされたカクンさんの体が、勢いよく僕を通り過ぎていく。
効くかどうかは未知数だったけど、状態異常解除の術を右手に込め、ショナさんの横っ面に一撃をお見舞いする。
「っっっ!」
吹っ飛びながら彼女は翼人の体に戻り、地面に横たわった。
「まだっ!!」
着地に失敗して体勢を崩しながらも、まだ食い下がるカクンさんが槍を突き出してくる。
振り返り様に槍を踏みつけ、彼に向けて手をかざしてブリッドを待機。これでチェックメイト。
なんだかなあ。
最後、ちょっとだけ期待したのに。
「カクンさん」
「はい、参りました……」
翼人との模擬戦はこうして終わった。
「どうぞ」
僅かに自己嫌悪を覚えたその時、ドア越しに声が掛けられた。
朝起きて、しばらく汗を流して、飯を済ませて一息ついたらノックの音。
この頃の日常における定番だ。
お仕事開始ともいう。
「おはようございます、真様。……もしかして今日はご気分が優れませんか?」
ドアを開けると、既に身なりをきちんと整えて働く気まんまんのハイランドオーク、エマの姿。
早速、僕の顔に出ていたらしい気疲れを読まれて心配されてしまった。
今日の彼女はパンツスタイルで動きやすそうな格好をしている。そういえば最近はあんまりヒラヒラした服は見ないな。
「いや大丈夫だよ、エマ。夕べ、こうやって僕がまとまった時間亜空にいると凄く助かるって言ってくれたでしょ? だからさ、今日も頑張ろうと思ってただけだよ」
「ありがとうございます。実は今日のご予定は少し抑えめにしてあるんです。毎日毎日、雑事の決裁や皆の日常の報告ばかりお聞かせするのは心苦しいですから」
そう言うと、エマは申し訳なさそうに微かな笑みを浮かべた。
「そんな事ないのに。皆の話を聞くのは楽しいよ。もうすぐゴルゴンさん達もこっちに来れそうだって話だよね? それも昨日教えてもらって嬉しかった」
「その手の話は私も後回しに出来ませんので、真様にはなるべく早くお時間を作って頂くほかありませんが。それにしても、最近は少し、皆ただ真様とお会いしてお話をする為だけに用件を作っている節がありますので、そういう事は出来るだけ遠慮してもらうようお願いしようと巴様達とも相談致しまして」
「なるほど。まあ学園の休みが終われば僕もそれなりに忙しくなるだろうし、商会もほったらかしには出来ないからね。今のうちは出来るだけ皆と過ごそうと思ってる。なんだかんだで皆には色々お願いもしちゃってるから、そのお返しも兼ねてね」
実際は、僕より巴とか澪の方がドワーフやらオークやらを手足のように使ってるんだけど。
かと言って、僕は知りませんでした、なんてわけにはいかない。
巴にしろ澪にしろ、あれで結構僕の為って理由で動いてる事も少なくないし……何より家族みたいな二人だ。識は巴達のように手当たり次第というわけではなく、僕がお願いした事を適性の高い何人かと取り組んでくれる事が多いし。
今識には、この前移住の関係で面接したゴルゴンって種族の不便を解消する為にアイテムを製作してもらっている。
夕べの報告だと、とりあえずの形はもう出来ていて、今はその補助アイテムなしでも彼女達の不便――具体的には見たモノを問答無用で石化する能力――を制御できるようになる訓練について詰めている段階らしい。
お願いした事の一段上の成果を出すって、凄く優秀だ。
僕も見習わないとな。
「そう言って頂けると本当に……いえすみません。言葉が見つからなくて」
僕の言葉に、なんだかエマは感極まった様子で言葉に詰まってしまった。
「いや、そこまで感動してもらうほどの事は言ってないから」
「真様のような主を得て、私達は本当に幸せです……ううっ」
涙ぐむのはやめて、エマ。
主だの、王だの、本当に大袈裟なんだよな。そんな自覚は今までまったくないんだけど。
それでも、気付けば皆から若様って呼ばれる事にも慣れてる自分がいるわけで、なんだかなあ。
「あー……エマ? 今日の予定、そろそろ始めようか」
「あ、すみません! 本日ですが、まずは翼人の皆さんと模擬戦をしていただきます。各種族と親善を深める意味も兼ね、定期的に行われているものですが、翼人の皆さんが真様との手合わせするのは今回が初めて。族長のカクンさんも目の色が違っていました。彼らは既に何度か他の種族と対戦しておりますが、負けはなし。非常に強力な種族です」
翼人とゴルゴン。
どちらも夏休みを利用した移住面談に合格した種族だ。
ゴルゴンは種族の特性として目にちょっと課題があってまだ移住していないけど、翼人の方は早々に移住を終えていた。
翼人は、名前の通り背に翼を持った種族で、住居も高所に構える文化があるので、オークやドワーフとは若干集落が離れている。
現在、翼人達の為に山の麓の岸壁を住まいとして改修中だ。
本来はもっと高い場所を住まいとしているようだから、ここでいいか確認したけど、あまり僕から離れるのも失礼だと言うので、その場所に決まった。
荒野に住んでいた頃は様々な脅威から身を守る意味で高所に暮らしていたそうなので、別に高くないと不都合だという事でもないみたいだ。
土地は余ってるから、もし何かあれば引っ越しすればいいんだしね。
更に言えば、亜空では岸壁なんて誰も使ってないから、住み放題だ。
「翼人か。皆から聞く限りかなり強いみたいだね」
「やはり空を飛べるのが大きいですね。安全圏からの一方的な波状攻撃は、何らかの対策がないと何もさせてもらえません。幸い、攻撃の威力はそこまで高くないので、あと何度か手合わせをすれば我々とて負けはしませんが!」
珍しくエマが鼻息荒く熱弁するから、つい面白くなってしまった。
「あははは、ハイランドオークも一回負けたんだ?」
「……不覚にも初戦では完全に向こうの勝ちでした。我らハイランドオークにとって魔術師、メイジの役割は基本的に補助なのですが……ああいった相手を想定するとなると、今後は遠距離攻撃の担い手としても鍛えないといけません。もちろん、新たな戦術の構築は既に進んでおります」
「そ、そう」
かなり悔しそうな口調でエマがハイランドオークの今後の在り方まで話す。
わ、笑うんじゃなかったな。
「なら僕も気を引き締めないとね。参考になったよ、エマ」
「あ、それは……」
急に口ごもるエマ。
さっきまでは翼人を絶賛していたのに、どうしたんだろ?
「なに?」
「これは私のみならず、他の種族の方々とも議論した結果なのですが……」
「うん」
「多分、翼人の皆さんは真様と致命的に相性が悪いかと思われます」
「相性が悪い?」
「いえ! 我々の方が真様と相性が良いとか、そういう話ではありません。むしろ真様はそういった面では手が付けられないと申しますか、相性で語る存在ではないと言いましょうか」
「気にしたわけじゃないからフォローはいいよ」
「は、はい。つまり、翼人の皆さんは強いというのが我々の結論なのですが、真様から見るとあまり強く感じないと思われます。能力的な相性で翼人の戦力が過小評価されてしまうのであれば、それは翼人の方々に少し酷なのではと……」
「つまり実際は僕が感じるよりも強いから評価を上げてやって欲しいって事?」
これはまた、エマにしては珍しい。
彼女は仕事でも戦闘訓練でも結構シビアな見方をするほうなのに。
「そこまでは申しません。ただ、これから私もその光景を見るのでしょうが、多分もの凄くショックを受けるだろうなと。私達からすると苦戦は間違いない相手なのに、きっと真様相手だともう、ええ……」
本当に珍しく歯切れが悪いな。
「何か、自分がとんでもなく悪い事をするかのように思えてきましたよ、エマさん」
「巴様曰く『カトンボ同然じゃ』だそうで」
「……カトンボって、あいつはまた」
「言葉の意味はよく分かりませんでしたが、何となく私も、ああそんな感じになるんだろうなと思ってしまいました」
意味が分からないのに語感で納得させるなんて、凄いぞカトンボ。
何となく納得いかないものの、エマからここまで言われてしまった以上、出来るだけ翼人の力を客観的に把握するように努力しよう。
ただ……たかだか空を飛ぶってだけなら、そんなに凄いとは思えないのも確かだ。戦闘機ならともかく、生身で飛んでるんだし、攻撃当てれば落ちるよね、きっと。
うーん、考えたところで始まらないか。
まずはお手並み拝見といこう。
◇◆◇◆◇
カトンボでした。
エマから客観的にとか、相性はある程度考慮してとか言われた気がするけど。
断言します。
翼人はここにいる種族の中で一番弱い。森鬼にすらまるで及ばない。
確かに結構な高度まで空を飛べるようだけど、彼らのアドバンテージはそれだけ。
想像通り、上空から魔術や投擲で攻撃を仕掛けてくるのだが、ある程度攻撃の威力を出そうと思ったら結局翼人自身もそれなりに高度を下げないといけない。
射程の関係か命中精度の問題か分からないけど、これじゃあ自分からアドバンテージを捨てているようなものだ。
確かに、高い所にいるうちはエマの言うように「負けはしない」けど、全体的に火力も控えめで、決定的な攻撃手段がないから押し切れない。
オークやリザードが彼らの戦術に慣れたら、逃げ回るだけの引き分け狙いしか出来なくなるんじゃないか?
利点は高さと……あとは全員の間で結構連携がスムーズだったくらいかな。
雲の上からでも僕に向けてそこそこ正確な攻撃も放ってきた。まあ、威力の程はお察しだけど。
あれも何らかの連携の成果だろうな。
……駄目だ。褒めるべきところがそのくらいしかない。何をどう贔屓目に見ても、彼らは……。
「ああ……やっぱりこうなるのね」
エマが額に手を当てて深い溜息をついた。
この光景は、エマにとって予想通りの結果だったという事だろう。
「エマ……悪いんだけど、翼人、強くないよね?」
森鬼とかドワーフとか、それなりに力をつけた子は亜空の外にも出してるけど……翼人が出られるようになるのは、ずっと先の事になりそうだな。
僕の側にいるってだけで、外でどんな不幸にエンカウントするか分からないわけだし、実力的に安心出来ないと外には出せない。
「いえ、強いです。強いんです。真様以外には、それはもう、本当に」
「彼らを庇いたい気持ちは分かるけどさ。あれは強いんじゃなくて、負けないだけだよ。まあ、しばらくは中で特訓だね」
「そう……ですよね。確かに結果は、それを示します。けれど、いえ、はあ……」
先ほどの翼人との模擬戦を振り返ってみよう。
僕が立っているのは、周りに視界を遮るもののない葦野原。
一方、翼人達はそこから少し離れた森の中に集まった為、僕と翼人とはお互い見えない位置からの開戦になった。
試合開始直後、翼人は地面に対して垂直に上昇を開始、彼らにとってのメインフィールドであろう空を目指した。
垂直離陸、しかもかなりの速度だ。
この動きは鳥の羽ではおよそ出来ないだろう。
けどまあ空と言っても広いわけで、雲の浮かぶ高度まで上昇するには結構時間がかかる。
つまり、その間翼人の姿は丸見えだ。
だから一見無防備に直角に飛び上がっていく彼らを見て、挨拶代わりにブリッドで狙い撃ちしてみた。当然、彼らは何か遠距離攻撃に対策をした上で飛んでるものだと思ったから、こっちもそれを確かめようと、全員じゃなくてあえて十人だけに絞って狙ったんだけど……。
結果は第一陣の数十人のうち、狙いを付けた十人全部が……墜ちた。
はい? って感じだったね。
じゃあ全部狙ったらどうなるんだこいつら。
撃ち落とされた第一陣を見て、慌てて飛び上がった第二陣二十数名の姿が見えた。
今度は全員を狙ってみたら、これまた全部ヒット。猟師に撃ち落とされた山鳥よろしく、ひゅるるる……と落下。
界で反応を探ると半数以上がそのまま戦闘不能状態になってた。
遠距離攻撃への対策なしで飛んで、その上防御力が紙って……。
このまま上昇するところを狙い撃ちにしてれば、最初に見逃してあげた第一陣以外、全部この繰り返しで終わってしまう。
それでは彼らの実力が分からないままだ。
身も蓋もない言い方をすれば、今のこの惨状が彼らの実力だという事になるし、本音では僕もそう思う。
でも、エマからの口添えもあるから、一応、力を出し切らせてあげないと可哀想だろう。
僕から距離を置いて観戦していたエマも、この戦況に早くも首を横に振っていて、翼人への紛れもない同情が仕草から分かる。
第三陣以降には手を出さず、無事に行かせてあげて、彼らの動きを見る事にした。
空に上った翼人達は何名かに分かれて編隊を組み、雲を利用し、時には自らの魔術で作り出した雲に身を隠しながら僕に迫ってくる。
とはいっても、確かに雲は視界を遮るけど、壁とは違う。矢も術も通過してしまうわけで、僕のブリッドは防げない。
つまり、目に頼らず、界で位置を把握すれば当て放題。
翼人達は狙い撃ちにされる状況がたまらなかったのか、次々に高度を落としつつ、手にした武器や用意した術を僕に放ってくる。
こういう場面での彼らの連携「だけ」は本当に素晴らしい。編隊の組み方も見事で戦闘機の実戦を見ているようだった。
しかしながら!
ブリッドだけで全部撃ち落とせる。
たかだか数十の攻撃、しかも空から来る以上丸見えだ。回避も防御も必要ない。
僕の攻撃の方が威力は明らかに上回っているから、向こうの攻撃を相殺するどころか、漏れなくブリッドが貫通してしまう。
そのせいで、当てるつもりもなかったのに、数人に流れ弾的なブリッドが命中してしまった。
落下していく翼人達が地面に激突して大怪我しないように、クッションになる術を用意してやる。
そうやって撃墜した翼人のフォローをしていると、前の攻撃から少しだけ時間を空けて僕の背後に回った一団がこれまた攻撃を仕掛けてきた。
界で把握する限り、威力はさっきと大して変わらないだろう。また撃墜してもよかったけど、一度は威力を確かめてみようと、あえて体で受ける。まあ、障壁は展開してだけど。
案の定、彼らの攻撃では障壁は揺らぎもしない。武器も整ってなかった頃のハイランドオークの攻撃がこんなもんだったかなあという程度。
貧弱である。
そして無防備だ。
僕を中心にして空を旋回する翼人の部隊からは、若干の焦燥が感じられる。
僕には界を通じて全員の位置が把握できている。
位置が把握できているのなら……当てるのは簡単だ。
右手を空に向けて突き出す。
旋回している四十ほどの翼人全てをロックオン。
手のひらに魔力が集まって球体を形成し、その周囲には紋様が描かれた帯が回りはじめる。
流石に落下のフォローまで僕がまたやると模擬戦ですらなくなりそうだったから、そこはエマに頼んでおく。
そういえば、僕は基本的に攻撃についてはブリッドとその変形しか使ってないけど、エマに言わせると僕のは既に初級の魔術であるブリッドとは別物になっているそうだ。
変形を加えた僕のブリッドは中級や上級の攻撃魔術に相当すると。
それぞれ名前があって、澪の時に使った連続で撃ち続けるブリッドは『磔る怒濤の轟撃』だっけ?
それから、今やろうとしてるように、複数の相手をロックオンして同時に攻撃するのは『閃烈の魔宴盛りなり』だったか。
ただ、実際僕が使ってるのは詠唱を変形させた初級ブリッドなので、完全に同一の魔術とも言い切れないらしい。
だったらもう、ガトリング的ブリッドとホーミング的ブリッドでいいよ。
詠唱の段階で期待する効果を口にしちゃってるわけで、特に個別の術として使うという考えはなかった。
もしかしたら、より正確に術を組んで名前を意識したら、多少は威力が上がるかもしれないけど……今の汎用性を消したくない。
状況の変化に応じて柔軟に対応できる方がメリットがあると思うから。
というわけで、四十の標的への追尾を帯の紋様にこめて……ブリッドを解放。
閃光が炸裂し、四十の光の帯になって僕の術が空を舞う翼人達に襲いかかる。
「うわ、誰も防ぎきれないのか」
殆どの翼人は障壁の展開すら間に合わずにブリッドの直撃を受ける。防御が間に合った一部の者も、展開した障壁を突き破られ、あえなく射抜かれた。
確か、移住の申告にあった人数は百弱。なら、今撃ち落としたので殆ど終了じゃないか?
負傷したのとか、支援に徹する補助役とかもいるだろうし、見た感じ部隊単位の戦闘が基本みたいだから、数人残ったところで戦闘の継続は難しいだろう。
まだ族長のカクンさんと補佐のショナさんは出てきてないけど……ここらで幕引きが妥当かな。
そう思っていたら、今までとは毛色の違う反応が僕の界の網に引っかかった。
でかい、しかもこれまでの翼人達よりかなり強い気配だ。
見ると、彼らが本陣を置いた森の方から、木々を大きく振るわせて巨大な鳥が飛び出してきた。
小さな戦闘機くらいあるな。
それに、上に誰かが乗ってる?
確かめると、そこには族長のカクンさんの姿が。
界で鳥の正体を探ると、そっちはショナさんだった。
翼人の特殊能力で巨鳥への変身能力ってのがあったから、それを使っているのかもしれない。
巨鳥は濃い緑色の障壁を全身に纏いながら、ぐんぐん高度を上げていく。
雲を突き抜けようとするカクンさん達に向けて、最初に使ったのと同じ強さのブリッドを放つが、これは緑の障壁に弾かれてしまった。
そうそう、そんな対策を見たかったんだよ。
次は何をする?
竜巻でも起こすのか? それとも見えない風の刃を荒れ狂わせるのか? もしかしたら、雲を作り出す延長で雷撃でも使ってみせてくれるのか?
この世界ではまだ雷属性の術なんて使われた事がない。僕もビリッと来る程度の静電気みたいなのしか作れないし、もしそれが出来るなら翼人の株は急上昇だ。
でも、そんな僕の期待はあっさり裏切られた。
上空で彼らの力が高まるのを感じる。
だが、彼らが使った術、それは強化だった。
身に纏う風の魔力と身体の強化。
つまり彼らのとった切り札は……特攻。
それも単純な体当たりだ。
「空中って安全圏を得て、攻め手が単調になったって事かねえ。残念だ」
界で捉えていた巨鳥と人の反応が、一瞬消えた。
急降下。
真下を向いての、直滑降と言っても過言じゃないほど無謀な軌道。
人がやったら気絶しそうな勢いだ。
それでも彼らはぐんぐん速度を上げて、僕が回避すれば確実に地面に激突して自滅するんじゃないかってスピードで迫ってくる。
まあ、避けないけどね。
弓を使って撃ち落とそうかとも思ったけど、彼らには弓を使うまでもない。
まっすぐ彼らを見据え、腰を落として身構える。
まずショナさんが変身した巨鳥のクチバシを左手で受け止め、一瞬遅れて体ごと突っ込んでくるカクンさんの槍を右腕でかち上げた。
「止めた!? だが!」
カクンさんの瞳が、驚愕に見開かれる。
「いくら速くても一直線じゃ防ぐのは難しくないよ」
槍を逸らされたカクンさんの体が、勢いよく僕を通り過ぎていく。
効くかどうかは未知数だったけど、状態異常解除の術を右手に込め、ショナさんの横っ面に一撃をお見舞いする。
「っっっ!」
吹っ飛びながら彼女は翼人の体に戻り、地面に横たわった。
「まだっ!!」
着地に失敗して体勢を崩しながらも、まだ食い下がるカクンさんが槍を突き出してくる。
振り返り様に槍を踏みつけ、彼に向けて手をかざしてブリッドを待機。これでチェックメイト。
なんだかなあ。
最後、ちょっとだけ期待したのに。
「カクンさん」
「はい、参りました……」
翼人との模擬戦はこうして終わった。
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