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17巻

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 1


 長いメンテナンス期間が終わり、いよいよ魔王領が開放された。
 まあ、長いと言っても、自分の場合は仕事から帰って細々こまごまとした家事を済ませたときには終わっていたので、待ち時間はゼロだったのだが。
 早速自分は「アース」として「ワンモア・フリーライフ・オンライン」の世界にログインし、フォルカウスの街の北門から魔王領に向かって出発する。
 今日の予定は、まず魔王領に入るまでは、他の人たちと一緒に徒歩で移動。そして国境での入国審査を通ったら、即座にアクアに本来の大きさに戻ってもらい、魔王城に直行する。ダークエルフの守護者であるやみ様から受けた今回の依頼は急を要するため、あまり目立ちたくないなどと言っている場合ではない。
 フォルカウスから魔王領の国境までは、徒歩で大体二〇分ほど。アップデート初日のお約束で、大勢の人が魔王領に向かうために、モンスターたちも近寄ってこない。襲い掛かってきても、数の暴力で瞬殺されるだけだと分かっているのだろうな。
 妖精国が実装された頃はお構いなしに襲い掛かってきたもんだが、あれからAIの強化が何度も入っているからな。モンスター側の思考もバージョンアップしたと考えるのが自然だろう。
 そんなこんなで、国境に来るまでこれと言った問題はなし。そして入国も問題なし。ただ、入国時に以前レンタルした例の耐寒ペンダントに対して、何らかのチェックが入っていたようだが……こっちもあれを使って何か悪事を働くわけでもなし、気にする必要はないか。
 入国許可を得ていよいよ魔王領に足を踏み入れた自分だが、その直後にぶるりと身を震わせた。
 寒い。国境をまたいでから歩いた距離は、直線にして一キロもない。にもかかわらず、確実に体感温度が大きく下がっている……と感じていたところ、耐寒ペンダントがあわい光を放ち始めた。と同時に、寒さは一気に消え去った。

(どうやら、ペンダントは問題なく効果を発揮してくれたようだ。さて、肝心のMP消費量はどんなものか)

 ちらりとMPバーに目をやるが……ほぼ変化なし。間違いなく減ってはいるのだが、自然回復量で十分まかなえるぐらいの、非常にゆっくりした減少速度なのだ。これならMPを極端に浪費しない限りは、ポーションなどを使わなくても大丈夫そうだ。
 さて、肝心なことも分かったし、急ぐとするか。

「アクア、お願い」
「ぴゅい」

 ちび状態のときの定位置である自分の頭上から飛び降りたアクアは、本来の体躯たいくに戻る。当然その状況は周囲の人にももろに見えているので、あちこちから「あれ、ピカーシャじゃん!?」とか「妖精国のシンボルがなぜこんな場所まで出向いてきたのだ!?」とかの声が聞こえてくる。しかし、今はその言葉に付き合うつもりはないので、全部無視してアクアの背中に乗る。
 目的地は魔王城、実装初日だが、一気に乗り込ませていただこう。

「アクア、GO!」
「ぴゅいいいい!!」

 自分の指示に、アクアは久々に鳴き声を高く張り上げて、空へと飛び立つ。周囲のざわめきがあっという間に聞こえなくなった。今は風の音と、ルエットの声だけだ。

「やっと託された依頼をこなせるわね。この前人魚の里に現れた赤鯨あかくじらのような化け物がまた生み出されちゃシャレにならないし、急ぎましょう」

 ルエットは休息を終え、また指輪から実体化できるようになったらしい。もちろん、今は省エネのちび状態だが、オリジナルであるフェアリークィーンとは完全に別の存在になったようで、その姿は元々のドレス姿から完全に脱却し、赤鯨戦で見せた鎧姿だ。そこまで姿が変わったきっかけは、名前が付いたことなんだろうな。

「ルエットの言う通り、これ以上放置しておけばとんでもないバケモノが生み出されてしまうかもしれない。アクア、雪の中つらいかもしれないが、頼むぞ!」
「ぴゅい!」

 アクアが全力で飛んでくれたおかげで、国境から魔王城の前に到着するまでに三〇分かからずに済んだ。
 だが、その魔王城前では、大勢の魔族の兵士が厳戒態勢で待ち受けていた……無理もないか。国境を越えたと思ったら突如魔王城方面に全力で飛んでいったんだ、魔王様によからぬことをしに来たと思われたとしても文句は言えないな。
 ひとまず、アクアには魔王城から少し離れた場所に降りてもらい、また小さくなってもらって自分の頭の上に乗ってもらう。それから自分は、魔王城に向かってゆっくりと歩を進めた。走ったりしたら要らぬ刺激を与えてしまう。

「そこで止まれ! 貴殿は先程、魔王領に入国したものだな? ここは魔王様がおわす城、観光目的で来る場所ではない! 用がないのであれば早々に立ち去られよ!」

 待ち受けていた魔族たちの中から一人の女性魔族が進み出て、そう警告を飛ばしてきた。その警告には、かなりの威圧感が込められている。しかし、それにしり込みするわけにはいかない。

「私は冒険者をやっているアースと申します! 今日ここに姿を現したのは、一つのお願いと、一つの依頼を達成するために、魔王様への謁見を願うためです。争う意思はございません! どうかお聞き届けを!」

 フードをかぶって顔を隠したままの女性魔族に、自分はそう答える。
 さて、何としても魔王様と対面しないと、話が進まない。どうやってこの女性魔族を説得しようかと考えていると……話は意外な方向に転がった。

「え? アース? ──一つ確認します。貴方は以前、ゲヘナクロスとの戦いに参戦しましたか? もし参戦していたというのであれば、そのとき移動に使った馬車の中にいた、人族以外の種族を答えなさい」

 へ? また懐かしい話を……えーっと、あれは妖精国に入った直後だったか? 確かに自分は馬車に揺られて南の街に向かった。で、一緒に乗り合わせたいろんな種族の人と、雑談したな……そうそう、それぞれが義勇兵になった理由を話したんだっけ。

「えーっと、あのときは……龍族、獣人……兎耳の人だったかな? それから魔族の女性だったと記憶しています。その魔族の方に、魔王様に会ってみたいと考えていたことを見抜かれたりもしましたね。それを獣人さんから呆れられたように記憶しています」

 記憶があいまいになってきているが、これくらいはまだ何とか覚えていた。それというのも、その女性魔族とのやりとりのおかげだ。だが、彼女の名前はすぽーんと忘れてしまっている。

「──そう、本当に来てしまったのね。大した行動力と言えばいいのか、頭のネジが飛んでいると言えばいいのか。とはいえ、全く見知らぬ人物というわけではないわね……」

 先程までの威圧感が消え失せ、思案する素振りの女性魔族。まさか、な。
 そんなことを考えていると、女性魔族がフードを脱いだ。その顔には見覚えが……あるようなないような。

「一応顔を確認したいので、貴方もフードを取ってもらえるかしら」

 ここで逆らう意味はないので、先にドラゴンスケイルヘルムを解除してからフードを脱ぐ。そうしてさらされた自分の顔を、じっくりと確認する魔族の女性。こうじろじろ見られると、恥ずかしいんですがね。

「間違いないわね。あのとき同じ馬車で揺られて共に戦場に向かった戦友との再会か……何とも妙な形になったものね。まずは、お互いあの戦場を生き抜いたことを喜ぶべきなのかしら?」

 まだ記憶はあやふやだが、自分の顔を知られている女性魔族で思い当たるのは、例の馬車で一緒になった人しかいないな。
 ここまで来ると、馬車の中で交わした言葉も鮮明に思い出される。そうだ、魔族の女性は、魔王様にゲヘナクロスの殲滅せんめつを命じられたと言っていた。それから外套がいとうで体を被っていた理由は、肌の色と角を見られるとおびえられるから、と。
 そして目の前にいる魔族の女性の角と、記憶の中の角の形が、完全に一致した。

「そうか……貴女あなたもあの戦場を生き延びていたんですね……本当にお久しぶりです。あの戦いでは辛いことが多くありました。できることなら思い出話に花を咲かせたいところですが、今はどうしても魔王様に直接、できる限り早くお会いせねばならない用事があるのです。何とかならないでしょうか?」

 自分の言葉に悩む魔族の女性。名前はまだ思い出せない。

「お会いしたいのであれば、時間をかけて身辺調査を受けた上で……というのが普通ですが。どうしても早急に魔王様に会わなければいけない重要な用事なのですね?」

 念押しの言葉に、自分はゆっくりと、しかししっかりと頷く。アクアが落とされまいとして頭に爪を立ててきたので、少し痛かった。

「ならば、魔王様の配下である四天王の皆様にお会いして、全員の許可を頂くほかありません。四天王様のお一人おひとりが出される試験を全てパスすることが、魔王様に謁見する最短の道となります。しかし、挑戦できるのは一度だけ。そしてその試験の結果によっては、生きて魔王城を出ることはできないでしょう。それでも構いませんか?」

 いるのか、四天王。ある意味お約束といえばお約束ではあるのだが。とはいえ、どんな条件であっても断る選択肢はない。時間をかければかけるだけ、状況が悪化することは目に見えている。
 赤鯨を最後に、まだ次の存在は確認されていない、赤いオーラをまとうモンスター。しかし、それは裏返せば、魔王領のどこかにある暴走状態の魔力が、赤鯨以上の強さを持つモンスターを生むために力をたくわえている真っ最中だからとも推察できる。

「構いません。その試験、受けさせていただきます」

 こうして自分は、魔王城の中に足を踏み入れることになった。
 さて、四天王とはどのような方々なのやら。闇様からも絶対に争ってはいけないと事前に念押しされているから、戦ってはいけないことだけははっきりしているが……どう立ち回ったものだかな。


「では、こちらへどうぞ」

 案内に従い、魔王城の中へ。そこでつい、自分はこう呟いてしまった。

「これは……凄いですね」

 見た目的には、そう派手というわけではない。だが、荘厳そうごんというか圧倒されるというか。とにかく一国の王が住まう場所としての威厳を、城の中にある物全てがかもしているのである。
 なるほど、魔王の名にいつわりなしといったところか。

「魔王様は大げさなしつらいをあまり好まれないのですが、やはり王の住まう場所には、それ相応の物が必要ですから。さて、ここから先の案内は別の者が行います。やってきたようですね」

 自分の口から漏れた感想が聞こえたらしく、魔族の女性はそう説明してくれた。
 さて、彼女の視線の先を見ると、奥から女性用のフルプレートと、メイド服が数人歩いてきた。
 ──お前は何を言っているんだ?と思われそうだが、自分は何も間違ったことは言っていない。本当に、鎧とメイド服そのものが歩いてきているのである。透明人間なのか? 魔王様の配下にそういう種族がいてもおかしくはないけれど。

「お疲れ様です、ここからの案内役は私たちが引き継ぎます。貴女は元の任務に戻ってください。外に控えさせた兵士たちにも、通常任務に戻るようにと指示を出してくださいね」

 と、女性用フルプレートがここまで案内してくれた魔族の女性に優しい声で告げる。
 ここにきて自分は、この見た目に該当するモンスターを思い出していた。それは、リビングアーマー、動く鎧だ。
 しかし、鎧のほうはそれでいいとしても、メイド服のほうは? リビングメイド? いや、そんなモンスターは知らない。

「貴方が、この度四天王の試験を受ける方ということでよろしいのですね? ここからは私の部下であるこの子――ミステが案内を務めます。ミステ、挨拶をなさい」

 リビングアーマーがそう言うと、動くメイド服部隊の中から一人(一着?)のメイド服が進み出て、丁寧にお辞儀じぎをしてきた。
 お辞儀だと分かったのは、頭上らしき場所にヘッドドレスが浮かんでいたからである。しかし、こうやって空中に浮かんでいるメイド服を見ていると、どうにも妙な気分になる。

「案内役を務めさせていただくミステと申します。よろしくお願いいたします」

 礼には礼で返すべきだよな。アクアを頭から降ろして胸元に抱きかかえ、こちらも挨拶をすることにした。

「ご丁寧にありがとうございます。私はアースと申します。こちらこそ急なお願いを聞いていただき、申し訳ありません。よろしくお願いします」

 普通に挨拶を返しただけだったのだが、なぜかざわめきが起こる。何かやっちまったかな? 所変われば意外なことがタブーになったりもするから……が、非難するような雰囲気はないから大丈夫だとは思う。
 挨拶が終わったところで、ミステさんが手を差し出してきた。手袋をしているので動作が分かりやすいのが助かる。

「それでは、武器をお預かりします。ですが、四天王の皆様に対して力を示すことで魔王様との謁見に繋げたいとお考えであるならば、そのままお持ちいただいて結構です」

 戦いに来たわけではないし、四天王の皆様に力を示す方法を採るつもりもないから、ここは素直に従おうか。

「分かりました、ではお預けしますね。ただ、少々数が多いのですが、よろしいでしょうか?」

 自分の問いかけにミステさんからは「問題ありません」と返ってきたので、あらゆる物を預けることにした。まずは弓と矢。次に魔剣。そしてくつにつけている蹴りの補助武器。

「はい、では一時お預かりしま――」
「すみません、まだあるのですが」
「――す……あら? そうなのですか?」

 次はアイテムボックスの中にある【強化オイル】、本来は調理器具である包丁、木こり用の斧、鍛冶用のハンマー、いくつかの毒薬などなど……鎧はまあいいとして、武器に転用可能な物を根こそぎ引っ張り出す。

「ず、随分とお持ちだったのですね。はい、確かにお預かりしました。お帰りになるときに返却いたします」

 ミステさんは少々引いているようだったが、まあ仕方がない。色々なスキルを取っている上に生産までやっている以上、どうしても持ち物が増えてしまうんだよな。

「では、ご案内いたします。最初の試験を担当する四天王様のお部屋はこちらでございます」

 身軽になった自分は、外套のフードも外した状態でミステさんの後に続く。
 その途中でちらりちらりと周囲の様子を窺うと、浮いているメイド服が掃除をしていたり、植物の世話をしていたり、物を運んでいたりと、忙しく仕事をこなしていた。

「これだけ大きいお城だと、メイドの皆様の仕事量も非常に多そうですね」

 前を歩くミステさんにそう質問すると、「ええ、かなり大変ですね」と言ってから詳しく話してくれた。

「休息時間は十分に頂けるのですが、かなり忙しいです。正直こうやって案内をしている時間は休息しているようなものです。まあ、アース様が非常に友好的かつ案内に素直に従ってくださるから、そう言えるのですが。逆に戦いばかりを望まれたり、城の中から価値のある物を盗み出そうと考える不埒ふらちな方を相手にするときは非常に疲れます」

 なるほどねえ。つまりここのメイドさんたちは、こまごました作業から戦闘までこなせるというわけか。まあ、魔王城に勤めるメイドさんたちが、普通のメイドさんなわけもないか──それ以前に、メイド服が宙に浮いているという時点で、ただごとじゃないけどさ。
 そんな雑談を交えながら案内されること数分。いろんな場所を曲がり、階段の上り下りなどもあり、一人で帰るにはかなり迷いそうな通路を歩いて、一つの扉の前に到着した。

「さて、お待たせしました。ここにいらっしゃいます。ここから先はお一人でお進みください。それが決まりですので」

 決まりならしょうがない。罠がないことを確認してから、扉の前へ。そしてノックをしようとして、手が止まる。

(あれ、ノックの回数って何回が正しかったんだっけ?)

 そんなことどうでもいいだろう、とツッコミが入るかもしれないが。自分はここで考え込み始めてしまった。

(一回じゃ足りないよな。二回は確かトイレのときって誰かから聞いたような。そうすると三回でいいのかな? 四回はくどいような気がするし)

 そんな風に考えを纏め、ノックをコンコンコンと三回。それから少し後に、「入ってよいぞ」との女性の声があった。
「失礼いたします」と断って、ドアをゆっくりと開ける。そして中にいたのは、下半身が大きな蛇、上半身は人ながら、その背中からは翼が生えた女の人だった。

「すまないが、ちょっとした書類の確認が終わらなくてな……せっかくやってきてくれたというのに申し訳ないが、少しだけ待ってほしい」

 彼女は背中をこちらに向けたまま、そう言う。
 こちらが押しかけたのだから、大人しく待つことにする。しばらく、部屋の中にはサラサラサラと筆記用具が紙の上を舞い、何かを書いていく音だけが聞こえた。
 やがて、カタンという音と共に女性は筆記用具を机の上に置いて、ふうと息を吐き出す。

「こんなところか。飛び入りの仕事はやめてほしいものだが、魔王様のためならば仕方がないな。さて、大変お待たせして申し訳ない。私は魔王様に仕える四天王の一人で、エキドナのマドリアという者だ。で、貴殿は四天王の試験を受けて魔王様への謁見を願う者で間違いはないか?」

 なんというか、眼鏡を掛ければ仕事ができるクールなOLみたいな感じだな。まあ四天王なんて大層な地位にいる方なのだから、OLと比べてしまうのは失礼か。

「はい、どうしても魔王様との謁見をできる限り早く叶えたい事情がありまして……押しかけてしまいました。よろしくお願いします」

 さてと、ここからが本番だな。どんな試験を言い渡されるのか怖いが、逃げ出すのだけは許されん。気合いを入れていってみよう。



 2


「まずはそこに座ってくれ。急いでいるということだからな。前置きはやめて、本題に入ることとしよう。早速だが、私の姿を見てどう思う?」

 ほえ? それは一体どういうことだろ? とりあえずもう一度、目の前にいるマドリアさんをよく見てみる。
 下半身が蛇であるのに加えて、上半身は翼があるというお姿。しかし、龍の国でも下半身が蛇のようになっている人はいたし、妖精国には色々な姿の妖精がいたからなぁ。このぐらいではもう驚きもしない。

「どう思うと言われましても、別に何とも思いませんが……」

 自分がそう答えると、腕組みをして考え込むマドリアさん。予想外の返答だったのだろうか? 次に問いかける言葉の内容を、とても慎重に選んでいるような気がする。

「本当に何とも思わないのか? この私の姿を見ても? 人族から見ればかなり異様な姿だろうに」

 と、ことさら下半身の蛇の部分を強調しながら言ってくるが、そんなことをされても答えは変わらんのよ。これにはポーカーフェイスも一切必要ない。何せ本心だからね。

「えーと、ご期待に添う返答かどうかは分かりませんが……多少姿が違う程度で恐怖心なんか持ちませんよ。今まで私は色々な国を巡り、色々なものを見てきました。その中には、マドリアさんのように人とは違う外見を持つ方もかなりいました。例を挙げると、ハーピーさんにケンタウロスさん、人魚さんにドラゴンさんといったところでしょうか」

 じっと聞いていたマドリアさんの表情が、人魚やドラゴン、と言ったところで面白いように崩れた。そしてぼそりと「なるほど、先にそんなものを見てれば動じるはずもないか」と呟いていた。
 外見の違いで怖かったのはドラゴンさんかね。体格の違いが大きかったからな……話が通じて本当によかったよ。

「今までの経験からくる価値観か、よく分かった。しかし、お前は私に対する敵意が全くと言っていいほどにないな。それはなぜだ?」

 戦うな、と先に教えてもらっているから……というのではダメだ。となると、こういう言い方にしてみるか。

「質問に質問で返すのは失礼ではありますが……逆になぜ、敵意を持たねばならないのでしょうか? かつて魔法を撃ち合ったり武器をぶつけ合ったりしたというのであればともかく、魔族の皆様とは厄介な敵を倒すために肩を並べて戦った戦友であります。そういったことがあったために、真に勝手ながら、自分は魔族の皆様に対して一定の信頼を寄せております。その上、いきなり押し掛けたのにもかかわらず、こうして話し合いの場を設けてくださった。そんな方々に対して、敵意を持つはずがありません」

 こんなところか。嘘ではないから、問題はないだろう。

「何というか、良い意味で拍子抜けしたな。今まで押し掛けてきた者たちは、私をはじめとした魔族の姿が自分と大幅に違うという理由で、一方的に敵意を向けたりののしったりしてきたものだ。そういったやからが多かったがために、ここ最近は国交を最小限に絞っていたのだが……それなりに時代が変わったということか?」

 今気がついたが、マドリアさんの眉間に僅かにあったしわが消えている。やっぱりそれ相応の警戒はしていたんだな。警戒のランクをやや下げたからか、実はさっきから感じていた微弱な電流みたいなピリピリしたものもなくなった。

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